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第88話

チュンチュン、雀の鳴き声が聞こえる朝。 全く眠れなかった。 重だるい体を無理矢理動かして起き上がる。 朝食を摂るのも億劫で、顔を洗い寝癖を直して服を着替えると、すぐに家を出る。 会社近くのカフェでコーヒーを買う。 それを持って自分のデスクに行くと、先に出社していた北田さんがギョッとした顔で僕を見た。 「え、上住君大丈夫?顔色悪いよ。」 「大丈夫です。おはようございます」 「あ、うん。おはよう……。何かあった?仕事手伝うことあるなら遠慮なく言ってくれたらいいからね?」 「仕事は順調なので問題ないです。ありがとうございます」 「じゃあプライベートかぁ。良ければ話聞くから!あ、今日飲みに行く?」 睡眠不足のぼんやりした頭で、眠たいなと思いながらコクリコクリと船を漕ぐ。 北田さんは「じゃあ決まり!店どこにしよっかなぁ」と行って僕の背中をバシッと叩いた。 地味な痛みにハッとして、今北田さんとしていた会話を思い出す。 「え、あ、飲みに行く?」 「うん。食べ物何が好き?」 「あ……」 適当に返事をしたのが悪かった。 いや、返事をしたつもりもないのだけれど。 やっぱり、なんてもう言い難い。 「えっと……なんだろう……?」 「あんまり思い浮かばない?朝だし、晩飯のこと思い付かないか!んー、俺が適当に決めてもいい?」 「はい。お願いします」 彼は「じゃあ考えとくね!」と言って自分の席に座る。 僕も椅子に座ってコーヒーを一口飲む。 ポケットにあるスマホはブーブーと震えていたけれど、ヒロ君からだと思うと宇垣さんの言葉を思い出して気が重たくなって、気付かないふりでパソコンを立ち上げた。

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