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第95話
隣の席の椅子が引かれた。
ガタッと結構大きめな音に驚いてビクッと肩が揺れる。
思わず視線をそっちに向けて、固まった。
「あれ、上住さんだ!昨日ぶりです!なんだか最近偶然が多いですね。」
「……」
「え、上住君大丈夫?知り合い?」
頭がスーッと冷たくなる。
なんでまたいるんだ。偶然にしてはできすぎな気もして、嫌な感覚がギュルギュルと胃を襲う。
彼女──宇垣さんは口角を上げてこちらを見ていて、咄嗟に口を手で覆った。
「うっ……」
「え、大丈夫!?吐く?トイレ行こう!立って!」
北田さんに無理矢理立たされてトイレに急ぐ。
そこで胃の中の物を吐き出して、耳の中でキーンと甲高い音が響くのを目を閉じて堪える。
背中を撫でられていると、コンコンとドアがノックされる。
北田さんが「入ってますー」と返事をしてくれたけれど、それに返ってきたのは彼女の声で。
「上住さん大分酔っちゃったんですか?お水持ってきました。」
「あ、あー……じゃあ水だけ貰います」
北田さんがドアを開けて水を貰う。
そして中を覗き込んできた彼女とバチッと目が合った。
ニッコリ笑った彼女は体を少し寄せてきて。
「ぇ……」
その途端、ドクンと心臓が大きな音を立てる。
冷えていた身体に段々と熱が戻ってきて、呼吸が荒くなる。
「っ!ぇ、上住君、君もしかしてオメガ……っ!?」
「っ!」
北田さんが鼻と口を手で覆う。
どうやらフェロモンが溢れ出ているらしい。
慌てて項を押え、なんとかお店を出ようとしたけれど、足に力が入らずに壁にぶつかりズルズル座り込んでしまった。
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