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第98話
「その時、思ったんです。上住さんはオメガじゃないかって。」
「ヒッ、ぅっ」
「それで……洋哉と付き合ったって嘘吐いた。二人っていつも一緒にいるから、どうにか貴方が洋哉といない時に会わなきゃって思って。ホラ、喧嘩してる時とか、気まずい時は一緒にいたいって思わないでしょ?」
「つ、付き合って、ない……っ?」
「うん。付き合ったことないですよ」
指を絡められたまま、彼女の親指が僕の手の甲をサリサリ撫でてくる。
気持ち悪いのにそれすらも敏感に快感として拾ってしまう体が嫌だ。
けれど、彼が宇垣さんと付き合っていたというのが全くの出鱈目だとわかって良かった。
「だから今日も仕事終わってから貴方を見てた。そしたら……まあ、同僚さんが居たのは予想してなかったけど、洋哉はいないし、問題ないかと思って。」
視界が涙で歪む。
呼吸が浅い。
「誘発剤もつけてきたんです。オメガなら香りに反応して発情期になるでしょ?……ほら、この誘発剤すごいなあ。効果覿面ですね。いい匂いしてる?」
顔が近づいてきて、せめてもの抵抗に顔を横に向けた。
怖い。なのに体は香りに反応して股間には熱が集まって、後孔は濡れてしまう。
「や、めて、怖いから、やめて、お願い……」
「洋哉とはシてるんでしょ?同じことするだけ。怖くないよ」
「いやだ、いや、お願いっ」
「きゃっ!」
バタバタ暴れて、なんとか体を捻り宇垣さんを上から落とす。
慌てて鞄の中のスマホを引っ掴み、部屋から出る。
逃げなきゃ。安全なところに。
でも、発情したオメガに安全な場所なんてない。
思い浮かぶのはたった一人。彼だけ。
必死になって足を動かしながら、スマホでヒロ君の連絡先を見つける。
電話番号をタップして、繋がるまでの間がもどかしい。
早く。早く……!
『もしもし──』
「っ助けて!」
「もう。痛いじゃない」
「ぅあ……」
走ったのに、熱に侵された体は上手く動いてくれなかった。
追いかけてきた宇垣さんに捕まり、今度こそ体が動かなくなる。
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