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第101話
「通報がありました。オメガの男性が攫われたと。」
「はぁ?」
どうやら男性達は警察らしい。
宇垣さんもそれに気がついたようで、漸く焦りを見せ始める。
「鞄の中見せて貰えますか?荷物はどちらに?」
「な、何でですか。何もしてないですよ」
そう話しながら、さっきまでいた部屋に入っていく三人と、ドアを開けたまま入口で立つ一人。
それを見たヒロ君は僕を抱きしめて「大丈夫?声聞こえてる?」と背中を撫でる。
「っ、ぁ、ン……っ」
「もうちょっとで帰れるからね。」
「ぅ、」
ヒロ君の匂い。
安心出来る彼の匂いが脳を溶かしていく。
「橋本さん、上住君と帰った方がいいんじゃないですか……?さっき下にいる時後で事情聴取できるし、まずそうなら今日は帰ってって言われてたし……」
ヒロ君に凭れて体から力を抜く。
体温が上がって、涙が零れて止まらない。
宇垣さんが怒鳴っているのか、フロアが段々と騒がしくなってきた。
しばらくして部屋から出てきた宇垣さんの両脇を二人の男性が固め、彼女を逃がさんばかりに厳しい目をして、奥のエレベーターに乗り込む。
一人だけ僕達の方にやってきた男性は、後日話を聞かせてくださいとだけ言い残し、その場から去って行った。
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