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第109話
暫くして戻ってきた彼は手に水を持っていた。
「座れそう?」
「……っい!」
「あ、無理しないで!」
起き上がろうとして腰に走った鈍い痛みに声が漏れた。ヒロ君は咄嗟に僕の体を支えて、腰をヨシヨシ撫でてくれる。
「お水飲めそうなら飲んでね。水分あんまり撮れてなかったから」
「ありがとう」
「それからさ……落ち着いたらでいいんだけど、ちょっと……話したい。」
お水を飲みながらコクコク頷く。
時計を見ると午前八時。本来なら仕事に向かわなきゃ行けない時間なのに、ヒロ君はゆっくりと過ごしている。
「ヒロ君、仕事は……?」
「大丈夫。休み取ってる」
「あ……ごめんね。沢山迷惑かけて……」
「迷惑じゃないよ。蒼太はまだもう少し寝る?お風呂入りたいならそれでもいいし、お腹空いてるならパンがあった。それか他に食べたいものがあるなら買ってくるよ」
返事をする合間も貰えず、一息に喋った彼に目をパシパシさせる。
そうしていると香ってきた柔らかい香り。
バニラみたいな、優しいそれ。
「……ヒロ君、何かつけてる?」
「え、何かって?」
「んー……香水?いい匂い。」
何気なくそう言うと、彼は顔を赤く染めた。
口元を手で覆い隠して視線を逸らす。
あ、今度はフルーティーな香り。
「あー……気にしないで。」
「気になるよ。なんの香水?前からつけてたっけ?」
いよいよ彼は俯いて「あのね」と恥ずかしそうに声を落とす。
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