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第118話
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ドキドキ
心臓が痛いくらいうるさくて、ヒロ君の手を握ったまま玄関で固まる。
「今日はやめとく?」
「……ううん、行く」
「……ちょっと座ろうか。」
北田さんはそんな人じゃないとわかっているけれど、もしオメガだと同僚達に知られていたらと思うと不安になる。
これまでされてきた差別が頭の中に浮かんできて怖い。
促されるまま、玄関に座る。
隣に座った彼は、僕の背中を撫でて「何が不安?」と聞いてきた。
「……」
「蒼太がオメガだって、北田さんは誰にも言わない人だと思うよ。」
「……わかってる」
「長い間休んだから?仕事任せちゃったから?皆になんて言われるか分からなくて怖い?」
「……怖い」
俯いて視界に入った靴をじっと見る。
誰にでも好かれたい訳じゃないけれど、嫌われるのは嫌だ。
そうしているうちに時間は経ってしまうわけで、このままではヒロ君にもまた迷惑をかけてしまうと思い、フルフルと嫌がる気持ちを無視して立ち上がる。
「え、蒼太、大丈夫?」
「……よし、行く。行くぞ……ヒロ君、ごめんね。行こう」
「おお……。無理はしなくていいから、本当に。出勤してからも、あまりにも不安になったら北田さんに伝えたらいいから。どうしようもなくなる前に伝えるんだよ」
「……何で北田さん?」
「あれからずっと連絡取り合ってるんだよ。」
北田さんには迷惑を掛けっぱなしだ。
手には菓子折を持って、気合を入れて家を出る。
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