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第120話

周りの人に頭を下げ「すみませんでした」と言いながらデスクに到着したころには、不安で胸がいっぱいだった。 「何かあったら言って。メッセージくれてもいいから。無理はしないでね」 「ありがとうございます」 「あ、後でメールで資料送るから、それだけ確認してほしいな。上住君が頼まれてた仕事、ちょっとでもフォロー出来たらって思って進めてた。間違いないかチェックお願いします」 「えっ!」 コソッと僕にそう言った北田さんは自分の席に戻っていく。 隣の席の同僚が「大丈夫?」と声をかけてくれるのを、「大丈夫です。すみません」と返事した。 北田さんは僕の代わりに作業してくれていたみたいで、少しするとパソコンにメールが届き、添付されていた資料を確認すると、もうほとんど仕事が終わっていた。 有り難さと申し訳なさに胸がキューっと痛くなる。 けれど誰も僕に非難の言葉を投げかけないし、厳しい目線も送ってくることがない。 ヒソヒソ話したり、オメガという単語も聞こえてこない。 悪いことばかり想像して暗い気持ちになっていたのがばからしくなる。 僕が勝手に脅えているだけで、悪いことは案外起こらないのかもしれない。 街の中で見たあの二人を思い出す。 彼らの堂々としている姿は清々しくて、正直羨ましかった。 「……よし」 小さい声で呟いて仕事をする。 心はカチッとスイッチを切り替えたかのようにスッキリしていた。

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