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第130話

「キツくないって言ったら嘘になりますけど……」 ヒロ君が悩んだ末に口にした言葉に、ズキンと胸が痛む。 それはわかっていたこと。彼はずっとオープンでいたいと思っていただろうから。 手を繋いだり、腕を組んだり。 ようやく僕ができるようになってきたことは、ずっと前からヒロ君がしたかったこと。 「まあでも、それって番が幸せであることが前提なんですよ。幸せそうに笑ってくれてたらそれで満足というか……。そりゃあ欲を言えば俺だってアピールしたいけど、そうすると蒼太は幸せじゃないと思うんです。多分色々悩んじゃう。悩ませて困らせるくらいなら、いくらでも待ちますよ。」 ヒロ君が僕の肩を抱く。 ズキっと痛んでいた胸はいつの間にか温かくなって、柔らかい香りに包まれる。 うっとりして、北田さんがいることを忘れ思わず彼に顔を寄せそうになった時。 「橋本さん男前。アニキって呼んでいいですか」 そんな北田さんの言葉で正気に戻った。 「あ、いや、恥ずかしいのでダメですね。」 「えー?でもカッコよすぎ。そっか、やっぱりアルファは番のオメガを一番大切にするんですね……。」 「性別はあんまり関係ないと思いますけどね。好きな人が嫌な思いをするかもしれないことを、わざわざしないでしょ。」 「……確かに」 ウンウンと深く頷く北田さん。 僕はキスをしたい衝動を抑えて、かわりにヒロ君の手をキュッと握り、視線が合うと『ありがとう』の気持ちを込めて笑ってみせた。

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