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第20話

孤児院を脱走して数年、僕は浮浪児に身を落とし路上で生活した。 ひもじい思いをした。 苦しい思いもした。 けれども寂しくはなかった。無二の親友のスティーブがずっと一緒にいてくれたから厳しい歳月も耐え忍べた。 口を糊するためならなんでもした。 物売り、靴磨き、売春。子供好きな変態に尻を貸せばお金を恵んでもらえた、気前よくご飯をおごってくれることもあった。 体を売る事に抵抗はなかった、周囲の子どもたちもごく当たり前にやってることだ、それに孤児院では何回も目撃した。夜中衣擦れの音に目を覚ますと同じ大部屋の子が大人に手を引かれ消えていく。数時間後に帰された子は決まって毛布を被りひきつけを起こしたように泣きじゃくる。 「ご奉仕させられてるんだよ」と、誰かがそう言っていた。 幼い頃はその意味がよくわからなかった。 よくよく観察するにつれ、先生に「ご奉仕」した子ほど贔屓されている事実が判明する。 先生の「ご奉仕係」に指名されると待遇が良くなって、皆よりちょっとだけ多くご飯をもらえたり、掃除炊事洗濯など子どもたちが手分けして行う雑務を減らしてもらえるのだ。そのうち「ご奉仕係」に任命してもらえるのを期待する子まで出始めた。男の子も女の子も、露骨に先生に媚びを売ってご機嫌をとるのだ。 院を飛び出した当時の僕はまだ子どもで、生計を立てる手段はごく限られていた。 靴磨きで稼げる額は少ない。物乞いのお布施も期待できない。体を売るのは生きていく為に仕方ない事だと割り切った。皆してることだ、痛くても我慢しよう。 初めての相手は酒臭い息の金持ちだった。 浮浪児が屯う路地裏で相手を物色していたら、スティーブの銀歯を両手で温める僕が目にとまったのだ。 『何を握り締めてるんだい?』 『スティーブ』 『?』 『友達なんだ。大事な友達』 強張った指を苦労してほどく。手のひらの真ん中が窪むほど強く握った銀歯に金持ちが目を見張る。 『可哀想な子だ。頭がおかしいからパパとママに捨てられたのかい?』 そんなこと知るもんか。両親の顔なんて覚えてない。赤ん坊を捨てた理由など知るわけがない。 真相はさておき、僕のことをどこかで拾った銀歯を友達と思い込んで可愛がる可哀想な子と決めつけたその金持ちは、ベッドの上でたっぷりと施しを与えてくれた。 結論から言うと、そいつは変態だった。 ただの子供好きの金持ちなら場末の路地に足を運び孤児を漁るリスクを犯さなくとも、相応の金を払ってその手の店に行けばいい。風呂にも入ってない、着替えもない、シラミの沸いた浮浪児なんてどんな病気を持ってるかわからない。 だが彼はこの僕を「ご奉仕係」に指名した。 他にたくさん子どもがいたのにこの僕を。 手を引かれ連れていかれたのは安宿だ。 彼はまず僕にシャワーを浴びせ、身体をすみずみまで浄めさせた。垢と泥を洗い落し、丸裸で寝室へ行けば、既に全裸になった彼がベッドに腰かけて出迎える。 一糸纏わず雫を伝わせる僕の、栄養不良で痩せ細った貧相な裸を執拗に観察し、股間のペニスをそそり立たせる。僕とは全然違う赤黒くグロテスクな一物は、既にカウパーでしとどに照り光っていた。 『こっちへ来い』 手招きに大人しく従う。「いい子だ」と褒められ、全裸で侍る僕の前髪をかきあげ額にくちづける。額にキスされるなんて生まれて初めてで狼狽する。顔も覚えてない両親は当然として先生にもされたことがない。 シャワー浴びたての柔い濡れ髪に指を通し、やさしく促す。 『準備ができたらしゃぶりなさい』 言われた通りにする。 彼の前に両膝を付いて、ほぼ垂直に屹立した股間の一物と対面する。 大人のペニスはまるで形が違う。大きさも違う。辛抱たまらず先走りを滴らせ、赤黒く濡れ光る巨大な肉棒を恐怖と好奇心がせめぎあう眼差しで熱心に見詰める。 コレが本当に僕の中に入るの?裂けやしないだろうか。勇気を振り絞って顔を寄せれば生ぐさい臭気が鼻につく。右手を添え、大きく口を開く。まずは頭を含もうとするが入らない。 『もっと大きく』 有無を言わせぬ命令に従って、関節の痛みを我慢し今度は顎が外れんばかりに開く。 隆々と勃起したペニスを口へ導き入れ、おっかなびっくり不器用に舌を絡める。 独特の臭気と凄まじい圧迫感にえずくも、辛うじて吐き出すのを耐えておしゃぶりする。 『上手だ、いい子だ。もっとお行儀悪くべちゃべちゃ音をたててくれ、犬のように』 『んっ、あっぐふ』 唾液を捏ねる水音を下品に響く。塩辛い味が口一杯に広がる。 胃袋が固くしこって嘔吐感が襲い、喉奥を突かれて噎せる。まずい、気持ち悪い。苦い体液が唾液とまざって煮溶かされ止まらない、僕は何も考えず男にフェラチオする、ご奉仕係の役目を果たす。あの孤児院にいたら僕にもいつかご奉仕係が回ってきたのだろうか、目の前の男に買われるのとどちらがマシだろう、ねえスティーブはどう思う?行為の苦しみから気を逸らそうと心の中で問うもスティーブは意地悪して答えてくれない。柔く潤んだ粘膜にしっぽり包まれ、喉奥の深みに抜き差しをくりかえし、ペニスはどんどん太く猛々しく育っていく。もう子供の口には入りきらないサイズだ。 『ふっ……ンぐぅ、くるし』 『そろそろいいだろう』 男が僕を軽々抱き上げ、糊の利いたシーツを敷いたベッドに寝かせる。 ベッドに寝るなんていつぶりだろう?こんなふかふかで気持ちいいのは初めてだ。フェラチオの苦しみと口内に蟠る苦みも忘れ陶然とする。 『どうして左手を握ってるんだ?』 男の声が、快適な寝心地にまどろみかけた意識を現実に引き戻す。 『見せなさい』 シャワーの最中もフェラチオを強制されてる時も、左手はぎゅっとに握りこんだまま誰にも見せなかった。咄嗟に左拳を右手で覆い、シーツを蹴ってあとじさる。男は暴力に訴えず、ただ僅かに声を低めて脅す。 『見せなさい。私に逆らうとどうなるか……わかるだろう』 『…………』 体格と腕力ではかなわない。この宿は男の知人が経営していると聞いた。身寄りのない子ども一人が蒸発しても簡単に揉み消せる。全身を汗だくにして左拳の中身を死守する。葛藤に引き裂かれた面持ちで、焦慮に焼き殺されかけながら、とうとう心が折れてゆっくりと左手を開いていく。 ごめんねスティーブ。 『友達はかくれんぼしていたのか、さがしたんだぞ』 続く呟きの意味がわからなかった。いやらしいにやつきの意味も。嫌な予感が胸の内で膨らんで弾ける。男が僕の手から力ずくでスティーブをもぎとる。 『なにするの、返して!』 張り倒されて背中がマットで弾む、ベッドが撓む。スティーブはあっさり男の手に渡った。ああなんてことだ守りきれなかった、いつも一緒のいちばんの親友をみすみす男の手に渡してしまった! 『スティーブとっちゃやだあ!』 泣き叫ぶ僕の両足首を鷲掴み高々掲げ、大きく股を割り開く。 『ぎゃっ!』 足首を吊られ締め上げられる激痛に脂汗が噴き出す。 『わかった、返してあげよう』 男が淫猥にほくそえむ。毛深い股の間で醜悪なペニスが密度と角度を増す。 下半身に壮絶な違和感と激痛。男が僕の肛門に人さし指を突き立てこじ開ける。排泄の用しか足してなかった窄まりに太い指をえぐりこみ抜き差しすれば孔が裂けて出血が内腿を伝う、その血をすくいとって潤滑油代わりに塗しもっと奥へ指を進める。 『あっ、あっ、あっ』 『友達が中に入りたがってるぞ』 『あぅぐっ!?』 『仲間外れにしちゃ可哀想だ、一緒に遊ぼう』 息が詰まる異物感と圧迫感。まさか。衝撃が心を引き裂き、全身の肌が粟立つ。無理矢理こじ開けられた肛門に当たる固く冷たい物。めち、と肉が裂ける。体が跳ねる。銀歯が肛門にねじこまれる。申し訳程度に指でならされていても銀歯で犯される背徳は筆舌尽くしがたく、固い表面で腸壁を擦られて倒錯的な快感が生じる。忍び寄る恐怖に歯の根が合わずガチガチ震え、ほんの数秒先に迫った最悪の想像が絶望の楔を打ち込む。 『おねがいやめてそれだけは』 深々と肛門を穿たれ、銀歯が奥へさらに奥へと押し込まれる。 『あっあっああっ!』 男の眼前に双丘をさらけだす屈辱的な姿勢をとらされ、物欲しげにひくつく襞を無遠慮な指が掻きほぐす。スティーブが僕の中にいる、僕の中で息づいている。裏庭に生き埋めにされたスティーブの断末魔が瞼の裏に錯綜、腰の奥から蕩かされるような快楽の荒波に溺れる。痛い。気持ち悪い。男は歯を使って僕を辱め、自由な手で自らをしごきたてる。 『お前の血と糞にまみれて友達も悦んでる。このままずっと腹の中で温めてあげたらどうだい、そうすれば落としてなくす心配もない、この世で一番安全な隠しポケットだ』 『や、あァ、ふあっ、もうやめ……おねがいゆるして、やァ……』 僕の尻穴をスティーブが出たり入ったり行ったり来たりする。直腸の粘膜を荒々しく擦り立て掻き開く、縦になり横になりこまめに位置を入れ替え窄まりを拡張する。 スティーブが僕のお腹の奥をぐちゃぐちゃに犯している。 『はっ……んか、へん……おかし……お腹の中……くちゅくちゅやめて……っ』 体がおかしい、勝手に刺激を期待して震えている。乳首もペニスも先端が熱を持って切なくしこり、全身がひどく敏感になっている。皮を被った幼いペニスは透明な汁に塗れ、薄ピンクの肉を覗かせひくつく。開きっぱなしの口から粘つく涎がたれおち、汗で濡れそぼった前髪が額にはりつく。 『腹の中で友達がコリコリ言ってるのがわかるだろう?ぬくくて気持ちいいのさ』 『ふあっ、やっ、いたっ』 『わかるかい?お前はいま友達に犯されてるんだよ』 『ふぅっ……うう……』 潤んだ視界が朧に歪み、張力の限界に達してひとりでに涙が零れる。 頬に筋を彫る涙をざらつく舌で舐め上げ、聞き分けない子にそうするよう僕を犯す男が辛抱強く諭す。 『友達にごめんなさいは』 『ごめ……なさっ……』 『だめだめ、そんなんじゃ許してもらえないよ』 『ごめ……ごめんなさい……ゆるしてっ、ください……』 『だめだ。反省しなさい』 『ひぐぅ!?』 嗚咽が喉に詰まってしゃくりあげる。その間も責めは絶え間なく、尻は歯を銜えこんで離さない。必死に許しを請い縋りつく僕を追い上げ、孔を穿つ指を勢いつけ回せば、子どもの身には強すぎる肛虐の快感が目覚め、声が変に上擦る。 『ひゃうっ、あうっ、あァんっ!』 もっともっと搾り上げるよう粘膜が貪欲にうねり狂い、体内の奥深く挿入された異物が前立腺をコリコリ転がし直腸が収縮、全身の筋肉が引き攣る。 男が僕の耳をしゃぶり舌を絡めて囁く。 『友達を孕んで産み直す気分はどうだい』 『やあああああッ!!』 『見ろ、はしたなくぱくついて友達をひりだすぞ。躾がなってない、しっかり咥えこめ、もう出てこないよう奥まで押し込んでやるから』 『あっあ、や、もうや、その先はや、ひぅあ』 スティーブが何度も何度も僕の中に生き埋めにされる、僕の中をくぐって肥溜めに沈む、何度も何度も孕んでは産み直し切れた肛門から血が滴る。 やだ。 スティーブに犯されてイく、イッちゃう! 『ああああーーーーっ!!』 ピュッ、ピュッ。未熟な先端が間欠的に汁をとばす。 射精と共に一瞬意識が飛んで視界に閃光が爆ぜる。 『お友達をクソまみれにして悪い子だ。そんないけないお前にはご褒美をやろうね』 『はっ……はぁ……』 ぐったりとシーツに横たわる僕の血まみれの尻、弛緩した孔からスティーブの形見が無意識に排泄される。シーツに転がった歯には血と糞が付着し、とても汚い。 大人は汚い。 いつもいつだって、僕の宝物を取り上げてしまう。ぐちゃぐちゃに汚してしまう。 窄まりから抜け落ちた歯にはもう関心を捨て去り、まだ衰えを知らぬ男が、汗みずくの手足を組み敷いて覆いかぶさってくる。こいつが娼館に行けない理由がわかった。子どもをいたぶって達するペドフィリアのサディストだからだ。 静かな諦念と絶望にひたりきって目を瞑り、腰を揺さぶられつつ一つの決意を胸に刻みつける。 相手にするなら子どもがいい。 暗闇で光るモノをまだ失わない子どもが。

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