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It's pie in the sky.

兄貴はてんでわかっちゃいない。 アイツには頭の悪い犬のようなところがある、おいしいごちそうが目の前に転がってんのにてめえのしっぽを追いかけておんなじところをぐるぐるしてやがるのだ。 兄弟だとか男同士だとかアナルセックスだとかどうでもいい、アイツが指折り数え上げるしちゃいけねえ理由はどれもくだらねえ、ただしたくないのをすり替えてるにすぎねえズルい言い訳だ。 ピジョン。 平和と隣人を愛する心優しい小鳩ちゃん。 血を分けた俺の兄貴。 母さん譲りの脳カラにゃ現実ってもんがとんと見えてない。 賞金稼ぎになるためにゃ金が必要だ、それも多いに越したこたァねえ。 客の使い走りと手作り雑貨売りでシコシコ稼いでちゃ永久に目標額にゃ達しねえ、真面目にやってりゃ努力が報われるなんてお涙頂戴の美談はいまどき流行らねえ。 だから体を売り始めた。 俺は高く売れる。ガキの頃から知っていた。俺を見る大人の目……値踏みするような、物欲しげなその目が、俺はいい商品になると自ずと気付かせてくれた。 自分で言うのもなんだが、俺は上玉だ。母さん譲りの顔と実地で鍛えたテクがある。なにをどうすりゃ女連中が喜ぶかガキの頃からわかってた。目線の使い方、顔を傾げる角度、思わせぶりな指遣いに感じてるふりの息遣い……たとえばキスをやめる間際にごちそうさんと唇をひとなめするとか、足の指を使ってへそをくすぐるとか、そういうのだ。おっと、内腿を軽く噛んで引っ張るのも忘れちゃいけねえ。皮膚の薄いトコは大抵敏感にできている。鎖骨や首筋、そういう毛細血管の破れやすい皮膚を吸えば上手い具合にキスマークが付くってのも知っている。 キスはマーキングと一緒だ。キスマークっていやァ聞こえがいいが、要は内出血の痣の一種だ。 俺がさわると女は悦ぶ。男もたいして変わらねェ、人間は気持ちいいことが大好きで快楽にゃ逆らえねーようにできてるのだ。 俺は童貞が服着て歩いてるピジョンと違って母さんと客がヤッてるのをただボンヤリ見てたんじゃねェ。 どうしゃぶりゃ気持ちよくさせられんのか、どう動けば早くイかせられんのか、俺の目を塞ぐアイツの指の隙間からじっくり観察して学び取った。 お稚児趣味の連中は、第二次性徴前の俺の細腰とか、贅肉も筋肉もまだ発達してねえ薄い肢体に涎をたらさんばかりに悦んだ。 こっちは脱ぐだけで結構な額のチップがもらえるし、寝りゃあさらに弾んでもらえるときていいこと尽くし。もちろん危険な目にも遭う。そういう時は腕とオツムの使いようだ。 ウリの実入りはよかった。 ガキを抱きたがる変態はわんさかいて、どの街に行っても干上がることがない。 ピジョンみたく真面目に地道にコツコツと、地べたに這い蹲って働くのが馬鹿らしくなる位だ。売春は俺の天職だ。向き不向きでいや賞金稼ぎより向いてるかもしれない。|娼婦《ビッチ》の息子は|娼夫《ビッチ》の法則でいくなら、天性の淫売の素質が備わってんだ。母さんは素晴らしい娼婦だ。で、濃く淫蕩な血を受け継いだ俺は素晴らしい男娼だ。自画自賛でも買いかぶりでもねえ、これまで遊び倒した客にゃ大いにご好評いただいてる。 男も女も老いも若きも引く手数多で基本来る者拒まずオールOK、金さえきっちり払ってくれりゃプレイはなんでもござれ(ただしスカとフィスト以外)色を付けてくれりゃ生で出させることもあった。後始末が面倒だからぶっちゃけごめん被りてえが、少しでも稼げりゃ手段は選ばねェし文句は言わねえ。 頭の出来がめでたいピジョンと違って、俺はちゃんと現実が見えている。自分の商品価値を理解している。 声変わり途中で掠れた声も、ほんの少し膨らみ始めた喉仏も、まだ出来上がりきってねえ骨格も、俺のすべてが売り物だ。頼りなく薄い胸板と、殆ど毛の生えてない股間を好む連中がいるなら特殊な性癖に付け込まない手はねえ。 経験則で断言するが、性倒錯した手合いほど金払いがいい。もちろん口止め料も入っている、人に言えねー趣味を持った変態ほど保身に拘泥するのが世の習いだ。 男娼の旬は短い。なら稼げるうちにパーッと稼ぐに限る。 男は孕む心配ねェし、後腐れなくて好ましいと笑うヤツもいた。それには同意だ。むずかしいことは考えねえ、気持ち良けりゃなんでもいい、俺はそういうふうにできている。レイヴンとの一悶着で何かが吹っ切れたのは確かだが、それ以前からずっと、こうなる予感はしてたのだ。 俺はもうずっと箍が外れっぱなしだ。 生憎走り出したら止まれねェ性分なのだ。 最後まで目隠しをとらなかったら倍払うと男は言った。 上等だと、俺はその意地悪い賭けを受けて立った。 今は少しばかり後悔し始めている。 「はッ……」 目の前は扁平な真っ暗闇。 視覚を奪われたぶん他の感覚が異様に研ぎ澄まされる。 視界を遮るのは薄っぺらい黒い布きれ、その一枚がもたらす効果は絶大で体中ひどく敏感になってるのがわかる。 「なんだよ、怯えてンのか」 体の裏表をまさぐるゴツい大人の手の感触。 筋肉で守られてない膝裏をなぞって割り開き、汁を垂れ流すペニスをいじくり倒す。 反り返った鈴口からとぷりと雫があふれ、背筋がぞくぞくする。 「まだガキのくせにいっちょ前に感じてんのか?いけない子だな」 「12ってなァホントか?精通はきてるよな」 「すっかり剥けてやがる。さすがに太かねーが……」 「ケツも使い込んでんな、擂り鉢状に肉が削げ落ちてる。一体何人咥えこんできたんだよ?そのわりにゃヴァージンみてェなお上品な色だ」 身体の下でマットレスが弾む。滑らかなシーツがてのひらに触れる。頭の上で違う声の男が会話するのに、ヴーッヴ―ッと低くこもった電動の唸りが混ざる。 何重にも綴じ合わさった肉襞に遮られたバイブの音。 妙に甲高く酔っ払った調子の声と、恫喝し慣れたように低く潰れた声が、這い蹲って一方的な刺激に耐えるしかない俺の痴態を品定めする。 コイツらと出会ったのはほんの小一時間前。 咥え煙草で暇そうに道端に突っ立ってたら、勝手に寄ってきた。交渉はとんとん拍子にまとまった。ハード目なプレイは?OK。道具は?OK。スカとフィストはNG。OK?そんな感じ。クソ食わされるのは嫌だからスカは却下、フィストはケツがガバガバになるから却下。セックスにタブーはねえ、気持ちよけりゃそれが正解だが、俺個人に関しちゃこの二点はぜってー拒否る。誰にでもある譲れねえ一線てヤツだ。ケツは男を悦ばせる商売道具、括約筋がイカレて一日中クソ垂れ流しになったら小遣い稼ぎどころじゃなくなる。こっちにとっちゃ死活問題だ。 目隠しをされる寸前まで、仲良く並んでいたニヤケ顔を思い出そうと努める。 ひょろ長いのと小太り。 体格は正反対だが、不潔な無精ひげを散らしニヤケ崩れたツラの造りと、穴と見りゃマンホールでもおっ勃てそうな好色な雰囲気がよく似ていた。 『兄弟なんだ、俺たち』 『俺が兄貴でこっちが弟』 交渉にノッたのは、その自己紹介にひっかかったからかもしれない。 複数プレイは経験済みだが、兄弟同時に相手どったことはねえ。一回試してみンのも悪くねえと出来心が騒いだのだ。 『顔のキレイなガキを挟んで嬲るのが好きなんだ』 『俺が上を使ってるときゃコイツが下で、コイツが上ん時は下で、かわりばんこに愉しめんだろ?』 『兄貴が挿れてる時にケツをずこばこ突くと中で擦れ合ってすっげェいいんだ、たまんねーよ』 『不思議なもんで、兄弟だとやっぱ好みも似んのかな?』 おっぱじめる前からすでにろくでもねえ連中だと察しは付いた。 ひょろ長兄貴はなれなれしく肩に腕を回し、デブの弟はやたらとケツをさわってきて、右と左からひっきりなしに笑えねえジョークを飛ばしまくるときて、宿屋をめざして歩きながら早くも辟易した。もう少し虫の居所が悪けりゃ鼻もひっかけなかった。 けどまあ、正直に白状すると、最初に提示された額に目が眩んだ。 肩といわず胸といわず腰といわず体中べたべたさわられまくれ、それでもナイフの先っぽをウゼえ手に刺さず我慢したのは、ただひたすらに金が欲しかったからだ。 どうでもいいが、俺は客待ち中煙草を喫ってる。煙草を咥えてるときゃ声かけていいぜ、ムッツリナイフをいじってるときゃ近寄ったらブチ殺すぞの合図だ。道端に突っ立ってる間中ナイフをくるくる回したり、両の手に交互に投げ渡すあぶねーヤツ、フツーにだれも近寄ってこねェ。見てくれにだまされてごくまれに声をかけてくる猛者がいるが、足元にナイフを投げて刺しゃ、大抵びびって逃げていく。だれだって去勢はいやだもんな。 そういや名前も聞いてなかった。 ……どうでもいいか。 「賭け」の内容は単純明快、おしまいまで目隠しをとらねえこと。手を縛るとか吹っかけられたらOKはしなかった。さっき会ったばっかの赤の他人に、それも素性のよろしくねェ連中に、むざむざ手を縛らせるのはカモってくださいと言ってるようなもんだ。殴る蹴る首絞められたって、こっちは手が出せねェのだ。 挙句金も払わずトンズラ、ふん縛られて全裸で転がってるのを店の人間に発見されりゃおしまいだ。最悪犯されてバラされる。そこへいくと、目隠しにゃまだ考慮の余地がある。視界は閉ざされるが手足は自由に使える、いざって時は引っぺがして逃げりゃいい。俺は勘がいい。後ろに回った男が変な動きをしても、楽勝で躱す自信がある。気配の移動や衣擦れの音に神経を配ってりゃ、絶対に下手を打ちゃしねえ。 俺の見立ては、ほんの少しばかり甘かった。 「ぅあッ、ああァあッ」 汗で湿った布が顔上半分に貼り付いて邪魔くさい。視界は息苦しい真っ暗闇に包まれている。ガキじゃあるまいし、暗闇が怖いから叫んでるんじゃねェ。俺は今、宿屋の一室にいる。歓楽街で立ちんぼしてる連中が利用する、安っぽいモーテルだ。 目隠しする前にざっと見て、なにがどこにあるか漠然と把握した。 赤と黒に塗り分けたけばけばしいインテリア、部屋のど真ん中にゃあらゆるプレイに対応できそうなデカいベッド、悪趣味の極みの内装。サイドテーブルのカゴの中に十連綴りのコンドームと潤滑剤のチューブ、大人のオモチャが突っこまれてるのもバッチリ見ちまった。 しかもご丁寧に三種類、初心者用で突起のない平均サイズのと、どんな男日照りの女やもめも満足いくだろう亀頭が笑えるくらい誇張されたどす黒く巨大なバイブ。 最後はアナル用の細いヤツで、挿入する棒状の部分に球が繋がっているのだが、先端は真珠サイズ、お次はピンポン、そしてゴルフボールと次第にでかくなっていく。 部屋に入って初っ端に、備え付けの玩具や避妊具の有無を確認する癖を呪いたい……が実際てめえのカラダに入るかもしんねーのだ、目測でサイズを把握しといて損はねェ。無理矢理突っ込まれて裂けたら困る。 「このオモチャ気に入ったか?どぷどぷすげェ勢いであふれてきた、小便もらしたみてえに内腿がべとべとだ」 オモチャを使われる位、別にどうってことねェ。 死体から引っこ抜いた銀歯を突っ込まれるのに比べたら、ずっとマシだ。 「ッは、ァっは……いき、なりは卑怯、だろ、オイッ」 それでも目隠しされて、心の準備がろくすっぽできなかったのはちょっとまいった。おかげでしまらねェ声を聞かせちまった。準備ができてねえのは心だけじゃねえ、カラダのほうがより無防備だ。 いきなり膝を掴んで割り開かれ、でんぐり返りするようケツを剥かれ、そこへ冷たい液体をたらされた。生理的な反応で肌が粟立ち、気色悪さに膝裏が波打つ。 何度も使われたから見なくてもわかる、潤滑剤だ。 チューブに入ったそれが俺の肛門に直接搾りこまれ、飲み干しきれず溢れた分が、腿を伝って滴り落ちる。太い指が潤滑剤をすくい、べたべたと塗していく。目隠しが邪魔だ。何も見えねえ、鬱陶しい。ツプ、異物が挿入される圧迫感。人差し指が窄まりに突き立てられ、捏ね回してぬちゃりと糸引く液体を奥襞にぬりこんでいく。男の一人が後ろに回り、もう一人が前に回る。窄まりを拡張する圧迫感が増し、指が二本に増える。 頭皮に痛みが走り、前髪を掴まれ上向かされたのを意識する。 「いッ……毟んなハゲ、パツキンが羨ましくてもやんねーぞ。どーしてもってんなら陰毛移植しろよ」 「口が悪ィな。躾けてやろうか」 男の声……髪を掴んだのは弟の方か。手が下へ移動し、顔をむんずと掴まれる。頬肉が歪に押し上げられ、表情に怒気が滾る。芋虫じみた指が顔中這い回り、家畜の健康状態を歯茎で見るように、唇の端をチロリとめくる。 「噛み癖あんのか?唇が切れてるぜ、もったいねェ。コレじゃ煙がしみんだろ」 「関係、ねえだろ」 「おいおい、チップを弾んでくださったお客サマにむかって関係ねえだろはねえだろ?」 金のためだ金のため、そう自分に言い聞かせ唾吐きたい衝動をなんとか堪えきる。男が俺に何をさせたがってるかは理解できた。業腹だが、欲しいモノを手に入れるには従うっきゃねえ。突如として生臭い肉のかたまりが押し付けられる。目隠しをなすって、鼻の筋をこすって、唇の真ん中をぐりぐりと押し潰す。 「タバコ取り上げられて口寂しいだろ?いいぜェ、腹一杯になるまでしゃぶれよ」 「あッあふ、ふぅぐッぅう」 布の向こうに、はちきれそうに怒張したペニスを突き付けられる。 俺は動かない。その余裕がない。腹ン中をボールがコリコリほじくるせいで、口を開けるなり喘ぎが迸り、フェラをおっぱじめるタイミングが掴めない。下手すると噛んじまいそうだ。 ダンマリを反抗と見て取ったか、男が調子付いて、俺の頬ぺたや首筋や鎖骨でコキはじめる。下の方じゃぐちゃぐちゃと猥褻な音が鳴る、もう一人がバイブを使っている。腹がふくらみ、へこむ。アナル用の棒状バイブがヴヴヴと唸り、小から大まで連なったボールが激しく出入りする。 「機械の震動に弱ェな、もうへばっちまったのか?腰がへなへなだ、まだこれからだってのによ」 「そりゃお前よ、ガキはオモチャが大好きなんだ。なあそうだろ、ケツにバイブ突っ込まれてよがってんのが証拠だ。相当使い込んでたもんな、ひょっとして一人でもヤってんの、アナニ―狂い?」 ヌチャヌチャ激しく出入りする球が粘膜を刺激する上、そのボール一個一個が震え、唸り、体内を思うさま攪拌する。 奥に位置する前立腺にもダイレクトに震えが伝わり、その上をボールがゴリゴリと連続で揉みこんで、何重もの快感が錯綜しておかしくなる。 「あッあふ、あァっあああッひァ!」 「全部脱がしちまおうぜ、めんどくせェ」 「コレはコレでエロいけどな」 「チラリズムにさかるタチか」 「こーんなヒラヒラのタンクトップ一枚、もとから裸も同然だろ。犯してくださいって言ってるようなもんだ」 男の手が合計四本体に群がる。薄い胸板をまさぐり、首筋をなで、腋を這いのぼり、皺ばんで縮んだタンクトップを引っ張る。色褪せた裾が巻きあがって、へそと乳首が丸見えだ。外気に曝された素肌をローションに塗れた手が這ってぞくぞくする。 「さわん、な、てめえでやる、から」 「遠慮すんな、親切に脱がしてやるって言ってんだから。てめえは赤ん坊みてえにアウアウ上と下の口からヨダレ垂れ流して喘いでなって」 「!?痛ッあ、あゥッひ」 ケツに刺さったままのバイブがキツい。腋からもぐりこんだ手が胸の突起を押し潰し、コリコリ摘まんで引っ張りを繰り返す。指の腹で揉み転がされ、ジクジクと乳首が疼きだす。目隠しされたせいで体中おかしくなってる。外耳に舌が絡んでクチャクチャ唾液を捏ねる。 尖りきった乳首を抓られ、鋭い痛みに体が跳ねる。前と後ろから挟まれて嬲りものにされる。タンクトップはあられもなくひん剥かれ、上半身に身に付けているものといえばあとは銀に光るドッグタグだけだ。 ピジョンとおそろいの…… 「なんだコレ?オシャレか」 ドッグタグが浮く。節くれだった指と太い声……二人組の兄貴の方が、俺に断りもなくタグを掴んでひねくり回す。鎖をぎりぎりまで引っ張られ、首が締まって苦しいが、そんなことどうでもいい。 バイブ刺しっぱなしの腹が苦しい。シーツの海を肘で這いずり、声の方へ近寄る。ちょっとでも動くと体内の球の位置が替わり、刺激の質が変化して脂汗が噴き出す。このサイズは俺にキツい、球は全部埋まりきらねェ、四個が限界だ。細長く不気味な異物がぐねぐねと中で動き、蠢き、そのたんびに肘が滑り、みっともなく突っ伏しかける。 「汚ェ手でさわんな」 前が苦しい、後ろが苦しい、腹が苦しい、全部苦しい、息を吸って吐くだけで中が引き攣れて天国と地獄が一緒にやってくる。煮え滾る炉に放り込まれたみてえだ。馬鹿でかい鼓動が耳の裏っかわで反響する。 薄っぺらい暗闇を無我夢中で這いずりながら、アイツのことを考える。ぐっしょり汗ばんだ布がぴったり目を塞いで、湿度のある闇が深まる。 見えない眼を虚空にさまよわせ、あてずっぽうで手を伸ばし、タグを取り返そうとする。 「宝物か?」 「取り返してェなら目隠しとれよ」 そっくりな声で嘲笑う兄弟……きっと表情もそっくりなんだろう、俺達とは正反対だ。 目隠しをとりゃ話は簡単、手足をふん縛られてるわけじゃねえ、コイツらを殴り倒してとっととトンズラすりゃいい。 連中はただ遊んでるだけだ。俺を挟んで嬲りたいだけだ。そしてその見返りに、いつもより多い金をくれると約束した。 ピジョンは馬鹿だ。極め付けのアホだ。馬鹿は馬鹿なままいさせとけ。 アイツが信仰する真っ当なやり方じゃカネはちっとも貯まらねえ、二人で取り決めた目標額に達しねェ、だったら俺がドブ水かっくらってやる。 アイツは極め付けに鈍感だから、手提げ金庫の紙幣が寝てるあいだに増えたところでバレねーはずだ。 ウリはすんな?だからどうした、いちいち約束守る義理はねえ。コレがいちばんてっとりばええんだ。 俺は気持ちいいのが好きだし、タフにできてるぶん酷くされてもまだ耐えられるし、今この瞬間バイブをケツに生やした自分は兄貴の同類のドМだと思いこみゃ痛みも恥辱も快楽にすり替わる。それで金が転がりこみゃ万々歳だ。 「~~~~~~~~~~~~ッあァ!?」 諦めきれず手を伸ばした瞬間、次波がくる。バイブのスイッチが切り替わり、前に倍した震動が中を揺さぶる。ヴ―ッヴ―ッ、殆ど一続きに響く音。腹が破けそうだ。キツく閉じた目に涙が滲む。 「惜しい空振り!ほれどうした、コレが欲しいんじゃねえのかよ?ばっちぃ手にさわられたくねーなら根性出せよ、もう1インチ右にズレりゃ届くぜ」 「可哀想に、首の後ろっかわまで針で突いたみてーにプツプツ汗が浮いてきたじゃねーか。ベッドに倒れこんだまま、カオも上げらんねーか?前も凄いことになってんぞ、後ろへの刺激だけでビンビンに勃っちまったハハッ!」 兄貴?弟?どっちでもいい、たいして変わんねえしどうでもいい。俺のケツに刺さったバイブを乱暴に抜き差し、勢いよく右に左に回す「うあ、ぅッあ、っあ、やめ、くそ、ぶっころ、ああッぅあ」悪態が喘ぎに磨り潰され、どぷどぷ溢れた先走りが足を濡らす。 「ミチミチひりだして産卵ショーだな」 「ほらよ、返してやる。感謝してしゃぶりな」 手が伸びる。顎を掴む。力ずくでこじ開けられ、潤んだ粘膜に指と共にタグを突っ込まれる。顎を掴んで閉ざされ、薄平べったいタグを噛まされる。グチャグチャかきまぜられドプドプ先走りが零れて頭が朦朧とする。 唾液に溶けて広がる冷たい金属の味。 カチカチと歯に当たる固い金属の感触。 俺の前にいるヤツが噛ませたタグをがちゃがちゃ揺するせいで、口の中が切れて新鮮な痛みが生じる。 「奥まで美味そうに飲み込んでんな。最後の一個もくれてやる」 「んん゛ッ、ん―――ッうう゛ッ!?」 後ろの男が手首に捻りを咥え、最後尾のゴルフボールが排泄の圧力に逆らって粘膜に沈み、深く深く飲み込まれていく。 キズだらけのタグを噛み締め、目隠しの向こうで絶叫する。 「ん゛―――――――――――――――ッ゛!!」 タグを噛まされ閉じきれない口から大量の唾液が零れ、体内のバイブがヴヴヴと身を捩り一際凶暴に暴れ、肛虐だけでそそりたったペニスに電流のような快感が走り抜ける。 イく瞬間、タグの表面を噛んだ。 ピジョンの幻が瞼の裏に立ち現われ、次の瞬間にはあっさりかき消えた。 大量の精を吐きだしたペニスはふやけきって萎れたが、バイブは充血しきった肉襞をブシュブシュと押し込んでいる。 「アハハすっげえ、派手にイッたな!そんなに良かったかこのオモチャ、ええっ、ずっぽり咥えこんでぎっちり吸い付いてたもんな!球がちょうどいいトコ当たるだろ、一個一個がブルってさァ……全部入ったの、わかるか?腹ン中ゴリゴリ削ってたろ。勝手にひりだそうとすンの、圧かけて押し込んだんだ。飛んじまっててわかんなかった?」 「も……一回イッたんだから、ケツに刺さってるの、さっさとぬけ……」 「マジ?物足りねーだろ」 最小から最大まで計七個の球がジュププと引き抜かれ、排泄に似て切ない脱力感が襲うもすぐまた根元まで埋め込まれる。 突っ込み、引き抜き、突っ込み、引き抜き、括約筋が収縮する。 へその裏側でドロリと溶け残りのマグマが蠢き、また下っ腹が熱くなる。 「ッあ、んん゛ッふぁ、奥キツ……中ゴリゴリ、そこ擦ンな……もうイッた、イッたって……ちったァ休ませ、ッあゥぐぅ、イきたくねッ、すぐはムリ……も、勃たね、イけね……」 出涸らししか出ねーのに搾り取られ、しおたれた先端が間欠的に潮を吹く。 イッた直後は感度が何倍、何十倍にもはねあがる。その状態のまま、最大出力でうねり狂うバイブに責め抜かれるのはたまらない。 「んあ゛ッ、ひぅぐッ、あァああああああああ」 冷たい機械は俺の都合なんかてんで関係なく、大胆な回転と震動を交え奥深くを穿ち続ける。精を出しきったペニスは萎えたまま、勃ち上がれずに痛みを感じる。前立腺へ送り込まれる震動は殆ど暴力で、強すぎる肛虐の快感にシーツを掻き毟る。人間みてえに細かい加減がきかねェ、機械の犯し方に翻弄される。 「ぬけっ、言って、んだろ、ぅあ゛ッあァっ、い゛ッあァああッ」 弛緩した肛門から直腸の体温で溶けた潤滑剤の残滓が飛び散り、栓をするバイブがブシュブシュ蠢動する。 「ご冗談を。まだ終わりじゃねーぞ」 「上のお口がお留守じゃねえか、まだ何もしてもらってねえぞ」 「そっちはテメエに譲る、下は俺が先な。コイツのよがりっぷり見てたらもうガマンできねえ……めちゃくちゃに犯したくなってきた……」 「せっかく用意してくれたんだ、一通り試さねー手はねーよな?」 わざわざ目隠しをとらねーでもわかる。バイブと比べて甲高い唸りはローターの音、後ろから伸びた手が俺のペニスを持って新たにローションを足しこねくりまわす。 「後ろ、ぬけ、前、手、どけろ」 前立腺の真下を通ったまま放置されたバイブの刺激が伝い、力尽きた前が弱弱しく頭をもたげ始め、そこへ別の震動が襲って「~~~~~~~~ッ!!」ローターを亀頭に押し当てられる。背筋が撓う、仰け反る、突っ伏す、身悶える、前屈みになればすかさず背中にのしかかられローターごと掌で揉みしだかれる、上に下に右に左に円を描くようにローターが鈴口を塞いで射精を塞き止めるせいで腰の奥がズクズク疼いて今度はローターが裏筋に回り込みローションを塗して滑る、先端と根元にも機械的な震動がくる、丸く膨らんだ睾丸にも交互に押し当てられる。 「よせ、ンなもん、ふざけッ、スイッチ切れ、ぃぐッ!?」 体液とローションでぬめる下肢を遡り、ヒク付く内腿を意地悪くなであげて、芯が勃った胸の突起を押し潰す。ビリビリと感電に似た快感に貫かれ仰け反った拍子にバイブが抜け、そこへ怒張があてがわれる。 「サイコーにえっろい眺め。目隠ししてちゃ見えねーか」 「ッは……あッ、あふ、ぅあ」 「ケツ穴と同じ、かわいいピンクのクリ乳首がブルブル震えて悦んでやがる。ローターお気に召したみてェだな?いっそ穴開けてぶらさげとくか、乳首責めもイケんだろ?後ろだけでお漏らししちまったもんな、ハハ!」 「てめ……ぜって殺す……ッァ」 「アナルバイブじゃぷじゃぷされてまんざらでもなかったろ?女のアソコみてーな音たててたの、聞こえたか。すっかり弛んで……俺のも余裕だろ?」 「ぅあ、うく」ローターが乳首と股間を忙しく行ったり来たり、弱弱しく勃ち上がり始めたペニスの先端にめりこんで先走りの放出を邪魔する、鈴口に栓をされ管が焼ける痛みと切ない疼きに涙が出る、弛んだ腹肉が背中に密着して剛直が穿たれる、バイブとは比較にならない太さの醜悪なペニスが感度が最大にまで高まった中を滑走する、腹が苦しくて息ができない、パンパンに詰めこまれて胃が底上げされる、膝裏に手をかけられ尻を高く上げさせられる、交尾をねだる雌犬のまねごとだ。 「ぅげほ、がほ」 前はローターに容赦なく責め立てられ、後ろはパンパンと突っ込まれ、挙句口の中にまで指がもぐりこむ。目隠しはまだ外れてない、ぜってえとるもんか。男たちが嗤い、俺はえずき、その間もケツに打ち込まれる剛直は荒々しさを増す一方で、親指と人さし指で横に広げられた口に生臭い肉塊が突っ込まれて、条件反射で舌を使いだす。ビーッビーッとローターが唸る、出力極まって一繋がりに響く音、ペニスはもう完全に勃ち上がって汁でべとべとだ、いっとう感じる裏筋に押し付けられたローターから痛みと紙一重の激烈な快感が沸き起こって、俺は昔、兄貴に言われたことをボンヤリ思い出す。 『俺のスワロー、返して』 ふざけんな。 お前の可愛いスワローなんて、最初っからいねえよ。 てめえの可愛い弟なんざ、とっくのとうに死んじまったんだよ。 どこのだれが自分ひとりおキレイでいたがるてめえのぶんまで汚れてやってると思ってやがるこのおれだ、てめえの甘い見通しも今の調子でちんたらやってちゃ十年たっても貯まるか怪しいカネも、全部俺が裏でウリやらなにやら体を張って必死こいて贖ってやってんじゃねえか。 アイツが寝てるあいだに手提げ金庫に札びらを追加したのは一度や二度じゃねえ、何度も繰り返したことだ、その為にハードなプレイを請け負って腰が立たなくなったのも一度や二度じゃねえ。 ちょっとくらい役得に預かったって、いいじゃねえか。 褒美をもらったって、ばち当たあねーだろ。 「んぐ、ぅぐ――――ッ」 「ちゃんと舌使えよ、ほら」 息が苦しい。酸欠の脳裏で思考が拡散、兄貴の顔が急激にぼやけていく。口一杯に怒張したペニスを頬張って、後ろの口は別のペニスをぎっちり咥えこんで、もう自分のカラダがどうなってんのかもわかんねえ。 両手で竿を持ち、擦り立て、男のペニスをしゃぶる。 口を窄めて招き入れ、ごちそうに舌を絡め、浅く深く吸い上げて刺激する。 「すっげ……締まりいいぜ兄貴、一滴残らず搾り取られそうだ」 「上もぬくくてイイ感じだ。見ろよこのツラ、白痴みてえに涎でべとべとだ。グチャドロできったねェ……さっきまでの減らず口はどうしたよ、クソ生意気なケツマンコロリータちゃん。せっかくのキレイな顔がだいなしだな」 「次交換しようぜ、俺が上な。ユルくなったらローターと一緒にこねてやれよ、ギュウッて締まるから」 「裏筋に当たるとイイんだろ、ビクビクはねる。スキモノだな」 「マゾっけあんだよコイツ、もう痛がってねーじゃん。シーツに擦り付けて夢中でケツ振ってら」 「待てよ、もう少しでイきそうだ……ッ、言うだけあって上手ェなコイツ、喉の奥まで使ってくる……」 「ローター突っこんだまま挿れてみる?」 「いいな、それ」 兄貴……弟……どっちだ?交互する声に頭がこんがらがる。声が近く遠く撓み、体がドロドロに溶かされていく。 男が頭を抱え込んで股ぐらに埋め、もう一人が俺の腰を強く掴み、中で痙攣。 さんざんイカしてイかされまくって、ようやく解放されたのは数時間後だ。 「目隠しとっていいぜ」 曳き潰され、捏ね回され、薄平べったく伸ばされて。 もう指一本起こすのも億劫だ。情事の余韻なんて感傷とはかけ離れた、毛穴に泥濘が詰まった倦怠感と抉れたような鈍い痛みが、ローションと体液の入り混じる粘液の飛び散った全身にわだかまる。 清々しく促され、鈍重に片手を動かし、すでに緩んでほどけかけていた目隠しをずらす。 部屋の明るさに面食らって数回瞬き。 俺を買った二人組はもう身支度を済ませたあとで、あの手この手でさんざん嬲られまくって途中で気をやった俺をほったらかしてシャワーを浴びたことに思い当たり殺意が芽生える。 男三人分の体液とローションとが淫らに染み付いたシーツの上に、べったり白濁が付着したローターと使用済みバイブとが転がり、電池切れが近い機械特有の瀕死の震動を続けている。 「最後まで約束守ってお利口さんだな」 「マジで目隠し外さなかったの、お前が初めてだ」 「バイブ突っ込んでもローター当ててもオモチャ入れたまんま突っ込んでも外さなかったもんな」 「実は賭けしてたんだ。俺は途中で音を上げるに一票」 「俺は最後まで粘るに一票。勝たせてくれてあんがとな、久しぶりに晴れ晴れした気分で帰れるぜ」 心底愉快そうに高笑いするゲスどもを虚ろに見比べ、からっぽの手を突きだす。 追加料金の催促にとぼけた顔を見合わせるゲスども。 しらばっくれるかと警戒したが、おどけて肩を竦めたあと、ひょろ長の手に小太りが皺くちゃの紙幣をのっけて、そこにひょろ長がポケットから引っこ抜いた紙幣を重ね、阿るように笑ってこっちに手渡しー…… 「ほらよ、有り難く受け取れ」 ひょろ長がサディスティックな笑みを広げ、頭上高く紙幣をぶち撒ける。 上空に舞った紙幣は緩やかに旋回して床やベッドに落ち、部屋中に散らばる。 「お前にゃ十分愉しませてもらったかんな、チップがわりにとっとけ。上の口も下の口もなかなかどうして、そんじょそこらの売女じゃ味わえねー極楽だったぜ」 「気が向いたらまた買ってやる。今度は目隠しナシで、可愛い顔にぶっかけてやるから楽しみにしとけよ」 口々に言い捨て、笑って部屋を出ていく兄弟。 背後でドアが閉じ、笑い声と靴音が遠ざかっていく。 ……世の中いろんな兄弟がいるもんだ。 ぐったり消耗しきった体に鞭打って、床やシーツに散らばる紙幣を一枚一枚拾い集め、指で弾いて数え上げる。 ベッドの上、全裸で片膝立て勘定を終えてから、両腕を開いて後ろ向きに倒れ込む。 俺の手から放たれた紙幣が再び宙を舞って、片腕で覆った顔の上にまで儚く降り注ぐ。 「……毎度あり」 俺が帰る頃、兄貴がぐっすり寝てればいい。 体中の痣に匂いの残滓、激しい行為の痕跡……苦労してひねりだした言い訳が、無用に終わればいい。 一日も早くカネが貯まって、俺達が大人になって……そんな今よりマシに思える日々がくるといい。 アイツとここじゃないどこかへ行ける、そんな日がきたらいい。

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