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ゴメン、嘘つきました 1(牧野)
「ねぇ、マキちゃん、用事があるから一緒に帰れない。先に帰るね」
授業が終わり、部活に行く準備をしていると、藤田がそう言いながら近寄ってきた。
別に、一緒に帰れなくても、俺は全然かまわない。帰宅部の藤田に、俺の部活が終わるまで待っててもらうのも、心苦しいし、何となくまわりの目も気になるし……。
俺は、俺と藤田の関係を知っている柿本が、2人の事を誰かに話すんじゃないかと、微妙に気になっているのだ。
今のところ特に何も言われないから、柿本が誰にも話さずにいてくれているんだと思っているのだけど――。
「あぁ、わかったよ。じゃな、藤田」
俺がそう答えると、なぜか藤田が不満そうな顔をした。
なんだよ、「用事があるから帰る」って言われたら、「わかった」以外にどう答えろっていうんだよ――。
「もー。マキちゃんったら、ぜんぜん寂しそうじゃないし!」
はぁ? 『寂しそうじゃないし』って……。
「いや、寂しいとかいうほどの事じゃなくない? いつも一緒に居なくたって平気だろ? 毎日こうやって学校で会えてるわけだしさ――」
俺がそう伝えたら、藤田がプーッと頬を膨らませた。お前はどこぞのアイドルか……?
まぁ、藤田はかなり可愛いから、そんな顔も悪くはないけどさ……。
「ふーん。なんかつまんないなぁ。マキちゃんの反応って」
藤田が続けた。
「じゃあ、何て言えばいいんだよ? 俺の為に予定を変えろとか言えば良いのか?」
こういう感じ、苦手なんだよな――そう思いながら、俺はちょっとキレ気味に答えてしまった。それが失敗だった。
「そうじゃないけどさー。マキちゃんって学校だと冷たいんだよなー。ベッドの上じゃ全然違って……」
まずい、これ以上藤田にしゃべらせてはいけない!
「ちょ、お前ねぇ!」
教室で何を言い出すかと思えば、ベッドの上だぁ? あのな、いつも思うけど、お前は色々と余計な事言い過ぎなんだよ。
確かに……。メチャ恥ずかしいけど、ベッドの上の俺は普段とはかなり違うと思うよ。それもこれも、どう見ても俺が藤田を抱くほうだろ? って、感じなのに、何故か俺が藤田に抱かれることになってしまったからなのだ。
なんせ、藤田は知識が豊富だった……。
正直言って、俺は藤田と付き合えるようになるなんて、思っていなかったから、男同士のセックスのやり方を正しく知らなかったし、調べようともしていなかった。
だけど、藤田は絶対に俺と両想いになって俺を抱くんだ、って思っていたらしくて。色々と手際は良かったし、俺の知らないような気持のよいポイントも知っていたし――。
で、未知の世界を知った俺は、自分でも知らない自分になって――て、急に顔が熱くなってきやがった。
「マキちゃん? なんか、いやらしい事でも考えてるんでしょ? 顔が赤いよ」
藤田が俺の顔を覗き込んで、ニヤニヤしていた。
「うるさい! 帰るんだったら、さっさと帰れよ」
色んな意味で頭に血がのぼってしまった俺は、藤田に向かってそう言い放っていた。
「なんだよ、牧野のバカ野郎! わかったよ、帰ればいいんだろ! 帰れば!」
クルっと向きを変えると、藤田は俺の前から居なくなってしまった。
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