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ゴメン、嘘つきました 5(柿本)
「柿本テメー!!」
ちょっと冗談のつもりで藤田の肩に腕を回したら、体育館から牧野が血相変えて飛び出してきた。
あちゃー。牧野、見てたのか?! なんてバッドタイミング――
と焦った時には、怖い顔した牧野がすぐそばまで来ていた。そして牧野は、逃げようととている俺の胸倉を掴み、右手を振り上げ殴り掛かろうとしていた。
俺はメチャメチャ焦り、思わず目を瞑りながら左手で顔をガードした。
ヤバイヤバイ、冗談きつ過ぎた――
いや、それにしても、牧野が学校でこんな大胆な行動にでるとは思わなかった――殴られそうになりながらも、俺の中の冷静な部分がそう考えていた。
と、その時――
「マキちゃん! ダメだよ!」
隣から藤田の声が聞こえてきた。
藤田が止めに入ってくれたんだ。あぁ、良かった――そう思ったと同時に、牧野の身体が俺の身体から引き剥がされていった。
「何だよ、馨! お前、柿本と何の用事があったんだよ」
恐る恐る目を開けると、そこには、藤田の両肩に手を置いて、顔を真っ赤にしながら文句を言っている牧野の姿が見えた。
あー。牧野君、藤田のこと「かおる」って呼んでるんだ?
残念だけど、マキちゃん、俺は別に「かおる」と出かけるわけじゃないんだよ、
多分、俺、巻き込み事故にあっているんだ――妙に冷静な俺が、そう思いながら苦笑いしていた。
「まぁ、落ち着けよ」
藤田が牧野の頭をグリグリと撫でている。なんか、すごい光景だ――。
「落ち着いてるって!」
牧野が藤田の手を払いのけた。
いや、全然落ち着いてないだろ? マキちゃん……。
「ホントごめん、牧野。本当は用事なんて無いんだよ。学校だとマキちゃん、クール過ぎるからさ、なんかつまらなくて……。もし『一緒に帰れないって』言ったら何て答えてくれるかな? って思って、試しただけなんだ」
「「はぁ? 試しただけ?」」
俺と牧野の、間の抜けたような声がシンクロした。
「ごめんなさい……」
藤田は深々と頭を下げて謝っていた。
だけど、すぐに顔を上げ満面の笑みを浮かべた。
おい、それって本当に謝っている態度なのかよ? 藤田――。
「お前、ばっかじゃねーの!! そんなつまらない嘘言うなよ!」
なんと、牧野がそう言いながら藤田をギュッと抱きしめた。
牧野、かなり怒ってるけど、行動がちょっと……ヤバいよな……。
はぁ、バカップルめ。
藤田、もっとマシな嘘ついてくれ。
牧野、情緒大丈夫か?
つーか、どうぞ2人でやってて下さい。今後、俺を巻き込むな。
あー、でもなぁ、この2人、自分達で噂を広めることになるんだな。こんな抱擁、めったに見れるものじゃないぜ――。
校庭で抱擁している2人をガン見しながら通り過ぎて行った女子が、「えー?! あれ、まさか、牧野と藤田だった……?」って驚きの声を上げていた。
そうだよ、牧野と藤田なんだよ……。
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