16 / 36

ゴメン、嘘つきました 6(藤田)

 驚いたことに、牧野が校庭で俺を抱きしめてくれた。  どうやら、柿本が俺の肩に手をまわしたのに気づいてくれたみたいで、牧野が大慌てで体育館から飛び出してきてた。周りを気にする牧野がこんな事してくれるなんて……。 俺、やっぱ愛されてるんだな。  柿本には悪いけど、ちょうど良かったかも。お前がいてくれたから、上手くいったんだと思うよ。  牧野と念願の「恋人同士」になれたんだけど、学校だと牧野はいつも俺につれない態度。それがちょっと嫌だったから試しに「一緒に帰れない」って言ってみたんだ。 最近はずっと一緒に帰っていたから、どんな反応してくれるのかな? って思っていた。 牧野がちょっとでも寂しい顔してくれたら、それで満足して、「嘘だよ!」って言うつもりだったのに……。 牧野ったら全然余裕の顔するし、俺になんの用事があるのか気にもしてくれなかったから、俺、変な意地張ってしまったよ。  俺を抱きしめている腕に力が入ったと思ったら、牧野が俺の耳元で囁いた。 「馨、一緒に帰ろう。だから、部活終わるの待ってて」  学校では絶対聞けないような甘い声だった。もう、下半身直撃だったよ。  思わぬ方向に行っちゃった感じだけど、結果オーライかな。もしかしたら、今日も、マキちゃんの可愛い顔、見られるかもしれないぞ。俺は密かにそう考えていた。  母さんと姉ちゃん、家に居るのかな――。 「あ、そうそう。柿本、俺やっぱりマキちゃんと帰るから。先帰っていいよ」  そう言えば……と思い、すぐそばで俺たちの様子を、呆れたように眺めている柿本に声を掛けた。 つき合わせちゃって、ホント悪かったよ、柿本。 「ふざけんなよ……このバカップル」 「羨ましかったら、柿本も早く彼氏つくれよ」  俺がそう言うと、柿本が大げさに手をふりながら言った。 「あのなぁ、俺は彼女が欲しい訳。彼氏なんて、いらねーっつーの」  『彼氏なんて』とか、言い方が気に入らないぜ、柿本。 「ふーん、それは残念」 「残念とか、わけわかんねーし」  わからなきゃ、教えてやろうか? と言っても言葉だけにしておくけどさ。 「だってさ、男同士のあれって、すっげー良いんだぜ。ね、マキちゃん」  ほんの少しボリューム下げて言ったつもりだったけど、そうでもなかったようで、周りにいた奴らが一気に振りむいて、驚いたような顔をした。 「ちょ、お前、学校でそんな……」  牧野が慌てて手を離し、焦ったような顔していたけど、もう、この状況じゃあ皆にバレバレだよ。牧野は俺をギューって抱きしめてくれたんだから。  俺はメチャメチャ幸せな気分になってて、笑顔全開だった。  牧野は我に返ってすごく焦るだろう。学校で俺を抱きしめるなんて、なんてことしてしまっただろう……って後悔するかもしれないし、落ち込んでしまうようかも知れない。 だけど、俺は何言われても、大丈夫なんだ。牧野、俺がお前を全力で守るから、安心しててよ。  だって、俺の愛は、空よりも高く、海よりも深いんだぜ。 「マキちゃん、だーい好き!」  そう言いながら俺は牧野を抱きしめた。牧野はメチャメチャ慌ててたけど――ね。 おわり

ともだちにシェアしよう!