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甘いキス 2(牧野)

「先輩、受け取って下さい。私、一生懸命作ったんです」  そりゃ、よけいダメだって……。 「ゴメン。気持ちは嬉しいけど、俺、受け取れないよ。付き合ってる奴いるし」 「そんなぁ。その場で断るなんて……」 「酷いよな、でもゴメン」  ホワイトデーまでモヤモヤした気持ちでいるのは、自分でも嫌なのだ。 「付き合ってる人って、もしかして、藤田馨?」  その子が急に怖い顔をして、馨のフルネームを言った。 「そうなんだ」 「ウソ……。冗談だと思ってたのに!」 「本当なんだよ。俺、あいつの事好きなんだ」  面倒な事になるより、はっきり言って断わった方が良いと思っていた。期待を抱かせておきたくないって思っていたのだ。だけど―― 「あんな奴のどこが良いんですか? 私の方が、先輩とお似合いだと思いません? それに、私の方が絶対色っぽいと思うし、それに……」  彼女が顔を真っ赤にさせながら、言葉を続けようとしたけれど、何故か急に眉間に皺を寄せて黙ってしまった。 「マキちゃん! 何してるの?」  背中の方から、藤田の脳天気な声が聞こえてきた。 「何……って、別に何も――」  ややこしい事は避けたい。だけど、どう考えてもこの状況は、「何でもない」では済ませられないか……。  一体、藤田は、どういう行動に出るんだろう? 予測不能なの所があるので、反応が恐かったりするのだけど――。 「邪魔しないで下さい、藤田先輩。私、牧野先輩にチョコ渡すんです」  ぐるぐる考えていると、彼女が藤田を睨みつけながらそう言った。俺は焦って、すぐに彼女に言い返した。 「だから、受け取れないって」  それでも強気の彼女は、俺の前に差し出した手を引っ込めようともせず、相変わらず藤田の事を睨んでいた。 藤田は、彼女の視線をものともせず、俺の顔を覗き込むとニッコリ笑った。 「ダメです! ちょっと綺麗な顔してるし、名前も女みたいだけど、藤田馨は男なんですよ!」  それは、俺もよく知ってる。裸も見てるし、あいつが俺の事を……いやいや、それは今考えてはいけない。

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