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甘いキス 4(牧野)
無理やり渡されてしまったけど、学校で捨てる訳にもいかず、仕方なく、その袋を、部室に行って、自分のカバンにしまい込んだ。
部活が始まる直前、体育館に行くと、俺の事を呼び出した後輩・田中が、俺を見つけて駆け寄ってきた。
「す、すみませんでした、牧野先輩。先輩には恋人がいるから、きっと受け取ってもらえないだろうって言っておいたんですけど、どうしてもって言うので」
田中が何度も頭を下げた。
「まったく、参ったよ。いや、それにしても、すごく強気だった……」
練習が終わった後くらいに疲れた感じだ。
「はぁ。俺達もビックリしました」
一年が数名、田中の横にやってきた。
「彼女、1年男子の中で人気あったんすよ」
「そうなんですよ……なぁ」
後輩達が顔を見合わせて、溜息ついた。
「衝撃的だったよな……」
「おい、お前ら、皆で聞いてたのかよ」
「はぁ。すみません」
そこに居た、3~4人の1年がそろって謝った。俺は見世物だったのかよ――そう思ってガックリしていると、少し離れた所にいた他の奴らが近寄ってきて、嬉しそうに話に加わった。
「牧野ったらさ、タジタジだったよなー。ちょと情けないぜ」
「それにしても、藤田もすごかったよな」
「いや、すごいもの見せてもらったぜ。バカップル」
結局、1年の一部だけじゃなくて、バスケ部員全員が、体育館のドアの隙間から、俺達の様子を伺ってたらしい。悪趣味な奴らだぜ。
まあ、こういうのも今では慣れて来たけど、初めの頃、俺は無駄にキレていたっけ。
「今日は、藤田の家にお泊りですかー?」
同じ学年の奴が聞いてきた。
「バーカ。んなわけねーだろ。両親居るし」
「うわ。居なかったら泊まるんだ?」
「まあね。青春真っ只中だから」
「キャー、マキちゃんのエッチ」
「あほか」
話が変な方向に行きそうになった頃、コーチの姿が見え、あっという間に俺の周りからみんな居なくなった。
俺は胸をなでおろしながら、ランニングを開始した。
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