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甘いキス 6(藤田)
「邪魔しないで下さい、藤田先輩。私、牧野先輩にチョコ渡すんです」
牧野に袋を差し出したまま、その彼女が恐い顔しながらそう言った。
「だから、受け取れないって」
牧野が困ったような顔してそう言っていた。
断わってたんだね? そう思ったら、俺は安心してしまった。そうだよね。俺のマキちゃんが俺を裏切るような事するわけ無いよね。
牧野が相手に期待させないようにちゃんと断わっているんだ、思うと俺は嬉しくなってしまう。
だけど、彼女は、手を引っ込めようとしないし、すごい顔して俺の事睨んでる。
悪いけど、君に勝ち目は無いさ。そう思って、余裕の笑顔を見せてしまう。俺って、ちょっと意地悪かな。
「ダメです!ちょっと綺麗な顔してるし、名前も女みたいだけど、藤田馨は男なんですよ!」
彼女がそんな言葉を言った。わあ、すごいな。この子手強い。
そんなに牧野の事が好きなんだ? だけど、俺だって、牧野のこと大好きなんだから、誰にも渡すつもりは無いよ。
「ちょっとさ、君、一年生だろ? 先輩の名前を呼び捨てにするなんて、失礼じゃない?」
ムカついたけど、先輩としての余裕を見せたい。俺は冷静な声で彼女に抗議した。
「すみませんでした、藤田馨先輩。ですが、あの、申し訳ないんですけど、今私、牧野先輩と話してるんで、邪魔しないでいただけますか」
めげない子だよね、ホントに強い。俺が色々言ってややこしくなるのはいけないかな?
そう思って、俺は退散する事にした。でも、牧野は俺の恋人だって事、わからせておかなくちゃいけない。
「わかったよ。邪魔して悪かったね。じゃ、マキちゃん、俺先に帰るけど、部活終わったら、うちに寄って。待ってるから」
牧野の肩を軽く抱いて、頬にチュッとキスをした。
「おい、馨! 何すんだよ!」
「ゴメンゴメン。学校では、するなってお前に言われてたよね。後でゆっくりしようねー」
牧野と彼女を残し、俺は家に向った。
絶対大丈夫。牧野は俺の事が大好き、俺から離れられる訳が無い。そうは思うけど、ちょっとだけ不安だった。
あの強引な1年生に無理やり……って、無理やり何されるってんだよ、あんな所で。
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