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甘いキス 8(藤田)

 それから、もう一度、袋の中を見て、彼女のお手製だという、チョコレートブラウニーってやつを取り出した。 「うわ。美味そうじゃん。俺、食べていい?」 「良いよ。俺いらない」 「何で?」 「食ったら、あいつと付き合わなきゃいけないような感じがするから。絶対いらない」 「じゃ、頂きます♪」  俺は迷わずブラウニーを頂いた。宮坂明子の作ったチョコレートブラウニーってのは、すっごい美味かった。ふと、自分の作ったものを振り返ってみたら、ちょっと引け目を感じたりしたけれど――。 「ごちそうさま。すっげー美味いよ。これ全部もらっていい?」 「あぁ、やるよ」  結局、彼女の作ったブラウニーは、全部俺が食べてしまった。 「あ、所でさ、俺からのバレンタインチョコあるんだけど」  俺がそう言うと、牧野が驚いたような顔をした。 「え、馨が? まさか作ったの?」  牧野が照れたように笑っている。可愛いじゃないか、俺の牧野。 「そう、作ったんだぜ」  俺が作った自信作を渡した。 透明のハート型のケースの中に、チョココーティングされたクッキーやマシュマロを入れて、金色のリボンでケースを結んだ。カードもお手製。俺と牧野がラブラブしてる写真つきのオシャレなカードだ。 『2人で暮らせるようになったら、マキちゃんにチョコつけて舐めまわしてみたい』  セリフが全然おしゃれじゃないけど、これは俺の願望。大学に通うようになったら、一緒に住めるといいなーとか思ってて、一緒に住むようになったら、絶対毎日一緒に寝るんだ。  ホントは、2人の仲がずっと続くと良いなって意味を込めてるんだけど、マキちゃんには伝わらないかもな――そう思いながら、牧野の反応を見てみた。 あれ? 意外にも、目元が潤んでない? 頬も少し赤くない? やっぱり、可愛い! 牧野。 「なんだよ? この変なメッセージ」  牧野の目、潤んでる……と思ったのに、不貞腐れたような声が聞こえてガックリくる。 「楽しそうじゃない? やってみたいと思わない?」 「だからって、カードに書くなよ。恥ずかしいやつ」  ブツブツ言いながら、リボンをほどいて、ケースのふたを開け、チョコを口に放り込んでいた。何だ、照れてるわけね。想像しちゃったのかもなぁ。 「うん、まあ、美味いかな」 「何だよ、それ」 「一応、誉めてんだよ」 「分かった分かった。照れやな所も大好きだよマキ」  肩を抱いて、耳元でそう言ったら、牧野が慌てて腕の中から抜け出した。 「だ、ダメだって」 「ホント可愛いなぁ、牧野」  俺が見つめると、真っ赤になって俯いた。学校で見る牧野と全然違って、すっごい可愛い。 俺だけが知ってる、牧野の素顔。あぁ、俺、超しあわせ!

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