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大好きだから 1

(これも時期外れですが、連載しちゃいます) 「ま~きの! おはよ」 「おう、藤田。おはよう」  いつものように、1日が始まった。  藤田は相変わらず、朝から教室でベタベタと抱きついてきて、顔をすりよせてくる。ちょっと異様な光景だけど、毎朝恒例になった今では、クラス中の誰も見向きもしなくなった。  学校で藤田が俺にベタベタしてくるのは、朝イチだけなので、俺達の仲を知らない人からすると、ごく普通の友だちに見えるだろう。  でもまあ、俺たちが恋人同士だという事は、校内の多くの生徒が知っている事だけど。  ところで……。  今日は3月14日。クラスの男子も女子も、なんとなくソワソワしているホワイトデーだ。とはいえ、バレンタインデーほどの盛り上がりは無いようだけど。  俺と藤田は既に恋人同士だし、お互いバレンタインデーにチョコを渡したから、ホワイトデーは、お返しとか面倒なことやめて、デートでもしようと決めていた。 デートと言っても、学校帰りに寄り道する程度で、特にスペシャルなプランがあるわけじゃない。だけど、藤田がオソロイの物が欲しいと言ってるので、それを見に行く感じになるんだろうな。 ホワイトデー用のお菓子を買ったほうが、安上りのような気がするものの、実は『オソロイ』っていう言葉に憧れがあったりするのだ。自分の新たな一面にちょっと驚いていたけれど――。  授業が終わったら、雑貨屋とかを見て回ろう。 学校帰りに藤田と出かけるのは、久しぶりかもしれない。俺が部活ある日は、もちろん出かけられないし、部活の無い日だって、いつも一緒に帰っているわけでもないから。 「牧野ー! 女の子が呼んでるよ」  その日の昼休み、飯を食ってる途中で、誉田(ほんだ)が俺を呼んだ。 「はー?」 「あれ? あの子、また来たんだ……」  藤田が、ガッカリしたような顔をして、俺を見た。  あの子って? と思いながら、教室のドアの方を見て、俺は脱力してしまった。 「勘弁してくれよ」  俺は藤田と顔を見合わせ、溜息を付いた。 「牧野ー、早くこいよ!」  誉田がニヤニヤしながら俺を呼んでいる。 「さすが、宮坂明子だね」  藤田が苦笑しながら言った。 「うーん」  厄介な事が起きなきゃいいけど――。  宮坂はバレンタインデーの日に、俺に手作りのお菓子を渡してきて、思いっきりアピールしてきた1年の女子だ。 藤田と付き合ってるから、それはもらえないんだ、と断ったつもりだったけど、彼女は納得してくれなかったのだ。  その後、しつこく何か言ってくることはなかったけれど、俺の部活を見に来たり、廊下で藤田と話している時に割り込んで来たり……ということはあった。

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