32 / 36
大好きだから 2
「……今日は何だって言うんだろ?」
そう言って俺は大きくため息をついた。
「彼女の粘り強さには頭が下がるね。だけど、俺は絶対牧野を渡さないからね!」
藤田が興奮したようにそう言った。
「あのね、お前が差し出したとしても、俺はあの子と付き合いたくないの」
正直なところ、宮坂さんはかなり可愛い。だけど、自分の気持ちばかり押し付けてくるような、そんなところが苦手なのだ。
好意を持たれるということは、喜ばしい事なんだろうけど――。
それにしても、どうしてそんなに気に入られたんだろう? 理由がよく分からないよ。
俺の事が好きでしょうがないとか、諦められないとかって訳じゃなくて、男である藤田に負けたのが許せない、ということも理由の一つのような気がするのだ。
「俺が行ってこようか? もう来るな! って一発ガツンと」
なかなか動こうとしない俺を見つめながら、藤田が言った。
「ありがとう。でも……俺が行くよ」
藤田だったら一発ガツンと言ってくれるだろうけど、余計に話がこじれてしまうような気もするし、何より、俺自身の問題だから……。
仕方なく立ち上がり、廊下に出てみると、宮坂が俺を見てニッコリ笑いながら、両手を出していた。
「え? 何……」
「何? って、今日はホワイトデーじゃないですか」
だから何だって言うんだよ――と言いたかった。でも、宮坂の言いそうなことだな、ってことはわかる。お返しがあるのは当然でしょ? って事なのだろう。
「あのね、悪いけど、何も無いよ」
「そんなぁ……。酷いですよ、牧野先輩。私、一生懸命手作りしたのに、何も無いんですか?」
「だからね、あの日、ちゃんと言ったでしょ? もらえないって。何度も言ったと思うけど、俺は藤田と付き合ってんの。だから――」
「でも、普通、何かお返しが有っても、良いと思うんですけど!」
だから~その高圧的な態度が嫌だって言ってんだよ――喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
それを言ったら、きっと話がややこしくなる。
「マキちゃん!」
「あ、馨……」
「……フジタカオル……センパイ」
『先輩』の所だけ微かに聞こえる程度の声だった。
「宮坂さん、マキに何の用なのさ」
藤田がニコニコしながら、宮坂に声をかけた。その笑顔が恐いかも知れない。
「前も言ったじゃないですか! どうして邪魔しに来るんですか?!」
「邪魔しに来たのは、君でしょ? 俺とマキが楽しく昼飯食ってたのに」
「それは失礼しました! 全然気が付かなかったです」
宮坂が抑揚のない声で言った。その言い方、ちっとも謝ってる感じじゃないよ。
「で、何さ」
藤田が急かすように宮坂に聞いた。
「フジタセンパイには、関係無いんですけど!」
「ふーん。もしかしてさ、マキにバレンタインのお返しもらいに来たんじゃない?」
ともだちにシェアしよう!