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第12話

スワローはトレーラーハウスを飛び出した。 「くそっ!死ね!ファック!ビッチども地獄に落ちろ!」 口汚く罵りまくって道端の角材を蹴飛ばす。 「~~~~~~~~~~ッだァあああ!!?」 はずみで脛に当たり悶絶、仰け反り突っ伏す少年に通行人が忍び笑いを漏らす。スワローは激怒する。 「~見るなら金払え貧乏人ども、ただ見は毟るぜ!」 啖呵を切られた野次馬がたちまち逃げ散っていく。 採石場からほど近い寂れた町は、日も暮れかかり稼ぎ時ということで、ちらほらネオンが灯って娼婦が立ち始めている。 シケた田舎でも水や食料の補給と羽休めができる宿場町の側面があるため、旅人も交えてそこそこの人出だ。 砂埃舞う街道を藁を積んだ荷車や馬車が行き交い、家々の煙突から夕餉の煙が上がっている。 出てくる際にそこらに転がってる私物をありったけ詰めこんだリュックはずっしり重く、背中にのしかかってくる。これを背負って歩くのはしんどい。中にはろくでもないものがしこたま詰まってる、頭に血がのぼっていちいち確認してる暇がなかったのだ。 先の事は何も決めてない、未来は白紙だ。 あんな家もう二度と帰るもんか、それだけは確かだ。 さっきのではっきりわかった。俺は邪魔者だ。 ピジョンの馬鹿ははなからスワローが悪いと決めてかかった、弟の弁明に一切耳を貸さず勝手に縁を切りやがったのだ。 敢然と両手を広げてスワローと対峙するピジョン、母を背に庇い立ち塞がる光景に怒りがぶり返す。 スワローを見る目には憤怒と嫌悪と侮蔑が渦巻き、十数年かけ育んできた肉親の情など消し飛んでいた。 ピジョンは極度のマザコンだ。 弟にやられっぱなしのへなちょこの分際で、母が危ないとなればまっしぐらに駆けてくる。母だってピジョンをあてにしている、力こそスワローの方が強いが精神的な支柱となるのは温厚で生活力に優れた長男の存在だ。 母とピジョンは特別な絆で繋がれている。 スワローだけがのけ者の仲間外れだ。 自分から飛び出してきたのに追い出されたような疎外感と孤立感を持て余す。 日頃の行いが悪すぎるから信用されねえのか? 「俺が母さんを刺すって?」 ハッ、と毒々しい笑いを飛ばす。 スタジャンのポケットから取り出したナイフでの刃で、手近な壁に貼られたストリップ小屋のポスターを切り裂く。セクシーランジェリーで申し訳に肌を覆った肉感的な美女が、ポールに纏わり付きながらストッキングを脱いでいてくポスターをめちゃくちゃにして、ほんの少しスッとする。 「俺が母さんを殺そうとしてるって、本気でそう思ったのかよ」 腹の底でどす黒い感情が蠢き、やり場のない憎しみで声が軋む。 スワローの中にあふれた憎しみが手からナイフへと注がれて、レオナルドが邪悪に鼓動する。 アイツは俺を殺人鬼の同類とでも思ってやがんのか?だからそんな狂った発想が沸いてくんのか?くそ、なでこうなるんだ。俺さえうまくやれば今頃とんとん拍子で話はまとまってるはずだった、アイツがのこのこ入ってこなきゃすべてうまくいっていたのだ、スワローの段取りも母の意志も全部ピジョンがぶち壊したのだ。 スワローは街角の壁に凭れ、先刻の出来事を回想する。 『母さん、ちょっといい?』 カーテンを開けた時、母はまだベッドで寝ていた。 チラリとゴミ箱を見れば、空の錠剤シートが入っていた。最近寝込んでいることが多い。使っているピルが合わないのだと前にこぼしていた。巷に流通するピルは安物の粗悪品が多く、偏頭痛や過眠などの副作用も酷い。されど娼婦の必需品なので背に腹は変えられず常用するしかない現状だ。 ピジョンとスワローはそれを心得ているので、一方的に母をなじりはしない。母が怠惰なのにはちゃんと理由があるのだ。 息子の姿を認めた母が起き上がる。 『わあスワロー、それなあに?』 『母さんの好きなもんだよ』 『パンケーキね!パンケーキでしょ!どうりでいい匂いがすると思ったら……ステキ、ママスワローのパンケーキ大好きよ!ふっくら丸くて上品な甘さ、口の中でふんわりとろけるの。それにしても……スワローが突然お料理するなんて何かいいことでもあった?ママやピジョンの誕生日でもないし……』 日頃おねだりを聞き流すくせに、特別な日でもないのにパンケーキを焼いた息子の行動を不思議がるも束の間、目の前にさしだされたキツネ色に目を輝かせる。 スワローの手作りパンケーキは丸くきれいに膨らみ、真ん中にちょこんと乗ったバターが、たっぷりかけられたメープルシロップと溶け合わさって黄金色に輝いている。 『いただきまーす』 フォークを掴み、早速パンケーキにとりかかる。 ぱくっと一口含み、感極まって身悶えして頬を押さえる。 『うーん相変わらずスワローのパンケーキは最高ね、ほっぺたが裸足で逃げ出しちゃうアンビリーバボーなおいしさだわ!特にこのふわっとした焼き加減が天才的よ、口に入れた瞬間天国の雪のようにほろほろ崩れるの!』 『シナモンシュガーが隠し味だ。膨らませてェならマヨネーズもいいけど』 『マヨネーズで膨らむなんて不思議よね、どういう理屈かしら』 『さあな』 『あーん』 『やめろよ……』 『あーん』 『トシ考えろよ、母さんが食えよ』 『甘いの嫌い?』 『母さんを見てるだけで腹一杯だ』 『スワローにもお裾分け。ごちそうしてくれたお礼がしたいの』 一口サイズに切り分けたパンケーキにフォークを刺し、スワローに突き付ける。 邪魔っけに追い払ってもてんでこりずニコニコ身を乗り出す母に重ねて促され、しぶしぶ口を開けばすかさずフォークを突っ込まれる。 パンケーキをのろのろ咀嚼、強引に嚥下してほんの僅か顔を赤らめそっぽを向く息子を、母は愛情深く見守っている。 『おいしい?』 『……うん』 俺が焼いたんだから当たり前だ。 『スワローは立派なコックさんになれるわね、そうなったら家族割引で毎日パンケーキ作って頂戴』 『さすがに飽きるだろ』 『飽きないわよ、おいしいもの!』 幸せそうにスイーツを頬張り、無邪気に息子をおだてる姿は夢見る少女そのものだ。語尾に音符やハートが乱舞してもおかしくない。 スワローが覚えている限りこの人はずっとこうだった。 子ども二人を抱え、流しの娼婦として各地を転々としそれなりに苦労したろうにまったく老け込むことがない。 若作りに惑わされた愚かな男はいわずもがな、思春期にさしかかった息子たちの庇護欲すらかきたてるお姫様。 おいしいおいしいと連呼しつつご機嫌麗しくパンケーキをぱくつく母に、スワローは深呼吸ひとつ単刀直入に切り出す。 『話があるんだ』 『なあに、あらたまって』 『賞金稼ぎになりたい』 浮かれはしゃいでパンケーキをフォークで切り崩していた手がぴたりと止まる。 突然の告白に、大好物のパンケーキを口に運ぶのも忘れあっけにとられる。 スワローは真っ直ぐに母の瞳を見詰めたまま動かない。 『賞金稼ぎって……悪い人を捕まえるあの?ラジオや雑誌でよくやってる?』 『それ』 『そんな急に……』 『急じゃねえ。ずっと考えてた、何年も前から』 母に嘘やごまかしは通用しない、ならば真っ向勝負にうってでる。 スワローは母と一対一、本音で話す。 日頃破天荒な彼からは想像もできぬほど大人びて落ち着き払い、できるだけ率直に、その実四苦八苦して自分の気持ちを伝えようとする。 『お兄ちゃんも……ピジョンも一緒に?』 『ああ。アイツも同じ気持ちだ』 どうだかな、とシビアに冷えきった頭の片隅で皮肉る。 本人はそう主張しているが実際は怪しいところだ。 母に嘘など吐きたくないのに、ピジョンの気持ちを代弁する段になるとどうしても欺いてるような後ろめたさが付き纏い口の中が苦くなる。 スワローは口ごもりつつ、履き古したスニーカーのつまさきで床を蹴りつける。 『前から考えてたんだ。その……ガキの頃から。なんだかんだ言いそびれてたけど、俺もピジョンもいいトシだし頃合いだろ?ずうっと親の脛齧ってるわけにいかねーし。賞金稼ぎなら元手がかからねー、学も金もいらねー。腕さえたしかなら成りあがるのも夢じゃねえ。俺は喧嘩が強ェし頭がキレる、ピジョンはヘタレだがアレはアレで使いようがなくもねェ。母さんの客に賞金稼ぎがいたろ?いろいろ話聞いて、アイツと相談したんだ。仕事を手分けして掛け持ちしてシコシコ金も貯めた。俺は用心棒でアイツは車の修理やその他パシリ全般、コツコツやってくうちに結構貯まったんだ。まァ俺のがデカく稼いだけどな、ピジョンもアイツにしちゃがんばったんじゃねーのよく知んねーけど。免許とりに中央まで行く旅費も稼げた。未成年は保証人のサインがいっけど、母さんがささっと書いてくれりゃ問題ねえ……』 『本気なのね』 『え』 『遊びや冗談じゃなく、本気で目指すのね?』 『もちろん』 スワローが力強く頷く。 母は静かにフォークをおき、ベッドの上で姿勢を正す。 息子を見詰める目にはその信念を推し量る真摯な色。 ふわふわ天然な様子は一変し、厳しさと優しさを兼ね備えた母性が居住まいに降りている。 スワローは唇を噛み、瞳に強靭な意志を込めて撃ち返す。 先に目をそらした方が負けだ。 俺はもう負けるのはいやだ。 『賞金稼ぎは危険がいっぱいよ。人を何人も殺して逃げている殺人鬼を追いかけるのよ』 『知ってる』 『簡単にはいかないわよ。キツくて弱音を吐きたくなるわよ。追っかけてる相手と殺し合いになれば大怪我するし、どうかすると死にかけることもある。成功者はほんの一握り、ラジオや雑誌が取り上げるのはごく一部のスターだけ。どこまでいっても実力勝負の世界だから安定した暮らしは望むべくもない。人から恨まれることもたくさんある』 殺人鬼にも家族や恋人がいる。賞金稼ぎがその遺族に復讐される事件は実際に多発している。 母はスワローに身を寄せ真剣な表情で教え諭す。 スワローは無表情に黙って聞いている。 くだらないと聞き流すのでもうるさいとキレるのでもない、母がたどたどしく語る言葉を逃げずに受け止め苛烈な眼差しで挑み返す。 『もとから覚悟の上だ』 『あなたに人が殺せる?』 一瞬の空白。 人殺しの経験はまだない。三年前、レイヴンの目を掻き切って失明に追い込んだ。 あの時の記憶は生々しく焼き付き、時折胸糞悪い夢を見せる。 即答できず押し黙るスワローの甘さに付け込むように、手厳しく追い討ちをかける。 『ちゃんとママの目を見て答えて。賞金稼ぎは追いかけて捕まえるだけじゃない、必要なら殺す仕事よ。自分やだれかを守る為に、そうすべきと判断したらどんな相手も殺さなきゃいけないの。命のとりあいが日常茶飯事なのよ。どんなに可哀想な生い立ちでも、どんなに歪められた人格の持ち主でも、恐れず、逃げず、その全てをしっかり受け止めた上で人を殺すことがあなたにできる?』 同情せずに。 引っ張られずに。 付け込まれずに。 取り込まれずに。 人殺しができるか、息子に問う。 現代の社会機構において、賞金稼ぎは民間の司法制度を代行しているとさえいえる。 母の客にも賞金稼ぎは多く、何人かは賞金首や同業者との死闘の中で命を落としている。 『身内の蹴落とし合いもすごいって聞くわ。高額賞金首を手に入れる為に皆が躍起になって足を引っ張り合うの、友達だと思っていた人間に背中から撃たれることもあるでしょうね。ママのお客さんだったネイサンおじさん覚えてる?信頼してた相棒に殺されて手柄を横取りされたの、もうすぐ子どもが産まれるって喜んでたのに』 裏切り出し抜き騙し合い、人間不信が日常化するのが賞金稼ぎの世界だ。 母がくどくど説くのは反論の余地と価値さえ見い出せないわかりきったド正論で、だからこそ退屈だ。 目の端でサイドテーブルを一瞥、パンケーキが冷めちまうなとどうでもいいことをボンヤリ考える。 息子の肩に縋り付き、不安げに問いただす。 『もし裏切られたらどうするの?』 『ピジョンは絶対裏切らねえ』 母が息を呑む。 スワローは確信と自信をこめて切り返す。 『アイツにそんな知恵も度胸もねェ』 まるで、ピジョン以外の人間など最初から信じるに値しないとばかりに。 信じる勘定にすら入ってないとばかりに、一切迷いのない口調で断定する。 何か言いたげに口を開閉、もどかしげに顔を歪めた母が半ば諦めた調子で念を押す。 『ピジョンと二人で組んでやっていくのね?』 『そうだよ』 スワローの肩を掴む手が脱力、大きなため息をこぼす。 再び顔を上げた時、乱れ髪の間から覗いた母の瞳は、悲哀で磨き抜いた透徹した色を秘めていた。 『もしだれかがピジョンに手を出したら……お兄ちゃんを守れる?』 懇願めいて切実な声が忌々しいフラッシュバックを喚起する。 レイヴンに押し倒され体の裏表をまさぐられるピジョンの痴態が、大人の無骨な手で服をひん剥かれ暴れる姿が細部まで鮮烈に甦りナイフや銃に襲われる光景がそこに重なる。 サイドテーブルに放置されたパンケーキがどんどん冷めていく。 ナイフで滅茶苦茶に切り裂かれ、極限の恐怖と苦痛に凍り付くピジョンの顔が瞼裏に閃く。 『ピジョンが殺されそうになったら、あなたはどうする?』 発作的に手が動く。 ジーンズに挟んでいたナイフを一閃、ワンタッチで刃を出すや力任せにベッドに突き立てる。 マットの裂け目から綿がはみ出て盛大に羽毛が舞う中、全体重をかけ捻って根元まで抉り込み、低く呻く。 『こうしてやる』 激情が堰を切ってあふれだし、前屈みでナイフを掴んだまま荒れ狂って咆哮する。 『絶対に許さない。俺のモノに手を出すヤツは必ずぶっ殺す。アイツを傷付けるヤツは全員ズタズタに切り刻んで地獄に送ってやる!!』 『スワロー……』 圧力を増した刃がさらに食い込み、急沸騰した憎悪と殺意が血管内を循環する。 『誰にもヤらせるもんか、アイツは俺のもんだ!アイツがヤバくなったら代わりに俺が出る、ヤりたくねェ傷付けたくねェごねるなら代わりに全部ヤッてやらァくそったれ、どうせもう汚れてんだ、こーなりゃとことん汚れきってどん底まで落ちるなァ覚悟の上さ!』 スワローは必死の形相で喚き、駄々をこねる子どものようにナイフで繰り返しマットレスを突き刺す。 そこに投影するのはレイヴンを筆頭にピジョンをさんざん嬲ってきた連中の憎たらしいドヤ顔、いくら切り刻んでも飽き足らない。くりかえしナイフを突き立てるつどトラウマに根を張った強烈なフラッシュバックが炸裂、激しい破壊衝動がこみあげる。 俺はもう色々と手遅れだ。 思えば最初っから手遅れだったのかもしれない。 三年前の事件があってもなくても、どのみちこうっていたのかもしれない。 あの事件がきっかけで何かが壊れた、どうしようもなく狂っちまった。俺の中に濃く流れる淫売の血が目覚めて、セックスに倒錯とスリルを求める傾向が固定されちまった。 ならいっそ、汚れたくねェアイツのぶんまで徹底的に汚れてやる。 おキレイでいたいアイツのぶんまで、ゲスくてクズい汚れ役を買って出てやる。 母はぽかんと口を開けたまま、身動きを忘れて息子の狂乱を見詰めている。 母さんにもだれにも俺の気持ちはわかるもんか。 『アイツは俺が守る』 窓からの陽射しを受けて光る羽毛が大量に降り注ぐ。 スワローはナイフを掴み、全身で誓いを立てる。 こうでもしなきゃ、きっと母さんには伝わらねえ。 どんだけピジョンを手放したくねェか、わかってもらえねぇ。 これは儀式だ。 自分の手で最愛の母への未練を断ち切り、巣立ちを告げる儀式。 『だから……』 荒い息に紛れて言葉が続かない。汗ばんだ肌におくれ毛が纏わり付いて気持ち悪い。鼓膜の内側で増幅された鼓動が暴れ、こめかみが熱く疼く。 伏せた睫毛が弱弱しく震え、赤錆の瞳に波紋が広がる。 懇願するような上目遣いで正面を見、捨てきれない母への愛情と断ち切れない兄への執着との板挟みで窒息しかけ、汗で滑りかけた柄を持ち直す。 母と過ごした日々の思い出が吹き荒れて、狂おしくせめぎあう葛藤に引き裂かれ、ナイフの柄を握り締める。 『行かせてくれ』 幸せだった過去に依存する未練と兄と描く白紙の未来を秤にかけたら、後者が断然重い。 ためらいがちに母が手を伸ばしかけた時― 『なにしてるんだ!!』 最悪のタイミングでピジョンがでしゃばった。 「…………」 もうなにもかもどうでもいい。 どうせ母さんにも兄貴にも理解してもらえねえなら、一人で生きていくしかねえ。 「こんなことなら全部一人で食っちまうんだった」 甘いものは好きじゃないが、冷めるに任せて残してきたのはもったいない。 「コケコーッ!!」 疲弊しきった視線の先では絶賛放置プレイ中のキャサリンが発狂したように走り回っている。 「餌付けはピジョンの管轄なんだよ……」 あてつけにさらってきたが正直扱いに困っている。捨てちまうか。 リュックを脇においたままぼやくスワローの前に、ストッキングに包まれた足が歩み出る。 「どうしたのさ、こんなとこに座り込んで」 虚ろな視線を上げれば、スワローとも顔見知りの世話役の女がいた。界隈の娼婦たちを仕切る四十路がらみの中年女は、持ち前のお節介を発揮し、スワローの正面にしゃがみこむ。 「しょぼくれた顔して……家族と喧嘩したの?」 「ほっとけ」 「行くとこないならうちにくるかい?むさ苦しいヒモ付きだけど」 「おいおい、本人の前でそれはねーだろ」 名前は……たしかキディとか言ったか。四十路女の後ろから同年輩の無精ひげの男が顔を出し、物珍しそうな風情でスワローを不躾に見詰める。 「コイツはなんだ?」 「前に話したろ、最近女の子たちのボディガードをしてくれてる子さ」 「ああ、採石場に車停めて客とってる娼婦の……なんだってあんな辺鄙なトコに?シケた街だが一家で泊まれるモーテル位あるぜ」 「うるせえ、どうでもいいだろ」 「反抗期真っ只中かよ」 ぶっきらぼうな返答に鼻白むもスワローへの興味が勝ったらしく、男が軽い口調で提案する。 「うちのがいつも世話んなってるな。ちょうどコレからコイツの仕事、暇になっから話し相手がほしかったんだ」 「暇になるからじゃないよ穀潰しが、アンタもちょっとは働け!」 「うるせえな、仕事ねえんだからしょうがねえだろ!」 痴話喧嘩じみた会話から推察するに、どうやらキディの同棲中の情夫らしい。仕事にでかける愛人を暇潰し次いでに送ってきた、というところか。そしたら街角でばったりスワローとでくわしたのだ。 スワローに向き直ったキディがおどけて肩を竦める。 「アンタにゃ借りがあるしちょうど礼もしたかったしね。よかったら泊まってってよ」 「……いいのかよ」 「反抗期に親と喧嘩して家出は通過儀礼だろ?アタシみたく追ん出てそのままのパターンもあるけどさ……野宿させんのも気が咎めるしね。いくらシケた街だって危ないヤツはいるんだよ、アンタみたいに顔のキレイな子は要注意さ」 「そうそう、集団で襲われて売り飛ばされちまうかもな」 「身の振り方が決まるまで遠慮なくいなよ」 キディ自身思うところがあるのか、トレーラーハウスを飛び出したきり行くあてのないスワローの腕をとって優しく勧誘し、男がそれに便乗する。 その触り方と視線の艶で、スワローはああ、と納得する。 俺と遊びたいのか。 だったらそう言やいいのに。 家出中の未成年を一時保護するというのは建前にすぎない。キディは親切心から申し出たのだろうが、男の方は今や下心を隠しもせず、露骨な欲望の眼差しで舌なめずりせんばかりにスワローを値踏みする。 スワローはため息を吐き、リュックを背負い直して億劫そうに腰を浮かす。 「……お言葉に甘えて」 どうせ汚れてるんだ。 こうなりゃとことんまで落ちきってやるさ。

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