9 / 14
第9話
あの晩、大和の部屋で性的な行為をしてから随分と月日が経ってしまった。徹から、蒼と大和の関係を受け入れてもらい安堵したのも束の間、次から次へと追いかけられるように迫って来る活動に、蒼はその激務よりも、大和と中々二人きりになれない悔しさの方が何十倍も辛かった。
「大和の部屋では絶対二人きりにならないこと」と、徹に釘を刺されているから尚更だ。
でも、ここで焦って迂闊な行動を取ると、いつ誰に二人の関係がばれてしまうか分からない。用心するに越したことはないが、その窮屈さが蒼のストレスとなり、それがグループの活動に大きな影響を与えてしまいそうで怖くなる。
大和のこととなると蒼の理性は米粒以下になってしまう。そんな情けない自分が嫌で、蒼は自室の机上で読んでいた台本を閉じると、少しだけ乱暴にそれを机の上に放り投げた。
この台本を明日までの覚えないといけない。バラエティー番組のくだらないミニドラマに出演することになったせいだ。こんなことに時間を奪われるのが堪らなく苦痛で、蒼はベッドの上でさっきからスマホと睨めっこをしている徹を、八つ当たりするように睨んだ。
「睨んでも無駄だよ」
徹はスマホの画面に目を落としながらも、蒼の視線を感じ取ったらしい。流石千里眼の徹は違う。
「我慢する時は我慢しないと。理性的な蒼さんらしくないな」
「はっ、うるさいよ。お前が俺の何を知ってんだよ」
達観したような物言いが蒼の神経に触る。でも、これは自分のただの八つ当たりだ。蒼はそれに気づくと、急に自分が情けなくなり、身を投げ出すようにソファーに横になった。
「大丈夫? イライラは体に良くないよ。蒼さんの気持ちは分かるけど、今は踏ん張り時じゃない? 大和さんも多分我慢してると思うし」
「……分かってるよ。そんなことぐらい……」
分かっている。蒼よりも責任のある立場にいる大和だからこそ、尚更冷静に行動しようと思っていることぐらい。それを蒼が自分の弱さで危険に晒すような行動を取ったら、蒼たちの関係などあっさり引き裂かれてしまう。
(嫌だ。それだけは絶対に嫌だ。やっとお互いの思いが通じ合ったのに。もっともっとこれから二人でやりたいことが沢山あるのに……。)
蒼は本当に悔しくて、腕を枕にしながら天井の一点を見つめると、ギリギリと歯を食いしばった。
「蒼さん……これは俺からの忠告だよ」
徹は、まだスマホの画面を食い入るように見つめながら蒼に言った。
「……何だよ」
蒼は顔を顰めながら徹にそう聞き返した。
「大和さんを苦しめたら俺が承知しないは、まだ生きてる言葉だからね。忘れないでね」
「……わ、忘れてないよ」
「否、忘れてる。今みたいな蒼さんは危険だよ。まず自分のことよりも大和さんのことを考えて行動して」
徹はスマホから目を離すと、蒼を真っ直ぐ見つめそう言った。
(ああ、そうだな、本当に……。)
蒼は自分が大和を巻き込んでしまった罪悪感を決して忘れてはいない。でも、大和への恋情が溢れてしまい、物事を冷静に考える術を忘れかけている。
(そう言えば完全なオフの日この先あったような。)
蒼は体を素早くソファーから起こすと、机上のスマホを手に取りスケジュール画面を開いた。
(2週間後の金曜日……。)
蒼たちのスケジュールは流動的であまり当てにならない。そのオフの日も土壇場で無くなる可能性だってある。でも、この一日を頼りに生きて行けば、この苦しい状況を何とか乗り越えていける。
(早く大和に連絡をして、その日に二人きりで会う約束をしないと。)
最悪、この貴重なオフの日が突然無くなったら、自分は冷静でいられるだろうか? ふとそんな疑問が蒼の頭を霞める。その時の自分を想像すると蒼はとても怖くなる。蒼はグループのことなどお構いなしに、ひどく身勝手な行動をしてしまうかもしれない。でも、そんなことを一番望んでいないのは大和だ。
蒼は先のことまで考えその時の自分を想像し、危機管理能力を高めていく必要がある。
(冷静になれ。それが俺の長所だろう?)
蒼はそう自分に強く言い聞かせると、善は急げとラインの画面を開くと、早速大和に送る言葉を打ち始めた。
「あ、蒼さん」
「……何だよ」
いきなり徹はベッドから立ち上がると蒼を呼んだ。
「前例があったこと忘れないで」
「前例? 何だよそれ」
「大和さんとのラインのやり取りはすぐ消すこと。証拠隠滅。分かった? 大和さんにもちゃんと言っといて」
(ああ、ったく、徹には頭が上がらない……。)
「……分かったよ。ありがとう。ちゃんと言っとくよ」
蒼は素直に礼を言うと、画面に素早く視線を戻した。
『2週間後の金曜日のオフの日、二人きりで会いたい』
蒼は何の前置きもなく単刀直入にそう送ると、しばらくして大和から返信が来た。
『俺はその日、両親へのクリスマスプレゼントを買う予定なんだけど、一緒に行くか?』
大和の言葉に心が躍る自分がいる。宿舎以外の場所で二人きりなりたいと思っていたことを見透かされたみたいで驚く。でも、クリスマスシーズンのこの時期は人で賑わう恐れがあるから注意をしないといけない。でも、二人でショッピングをすることなんて至って当たり前のことだ。何をどうこうカモフラージュする話じゃない。
『了解! 俺も付き合う。俺のセンスを頼っていいよ』
『なんだそれ。俺にセンスがないような言い方だな』
大和は怒りの顔マークを付けて、蒼に送って来る。
『あはは。それはどうだろうね。じゃあ、詳しい日程は近くになったらでいいかな?』
『オッケー。楽しみにしてる』
『俺も!』
会話が終わると、蒼は2週間後が楽しみで仕方がなくて、さっき放り投げた台本を手に取ると、机上に向かい座り、ページをパラパラと捲った。
「気持ち悪い。顔がにやけてる」
徹は蒼をからかうように蒼の脇に立ち、蒼の横顔を覗き込む。
「何とでも言えよ……よしっ、俺の演技力を見せつけてやる」
蒼は台本を食い入るように見つめると、興奮気味にそう言った。
「はあー、現金な人だなー」
徹はあからさまにそう言うと、蒼の肩を後ろから掴んだ。
「でも羨ましい。流石に男同士は無理だけど、俺もそんな恋がしてみたい」
徹は蒼の肩に痛いくらい力を入れるとそう言った。
「すればいいじゃんなんてそんな軽はずみなこと言える立場にないよ。けど、して欲しい」
蒼はそう言うと、肩の上に置かれた徹の手を、思いを込めるように掴んだ。
「ありがとう徹……本当に感謝してる」
蒼は何だか切なくなってしまって、心の底から思いを込めてそう言った。
「はあー、やだやだ。上から目線。あのね、感謝するのはまだ早いよ。俺は二人を注意深く見守るから、二人も俺の気持ちを絶対裏切らないように」
徹はまるで学校の先生のように偉そうに言うから、蒼は少しムカついて、肩に置かれた徹の手を、離せと言わんばかりに体を揺すぶって振り払った。
ついに約束の日が近づいた。それまで蒼はスケジュールが急に変更されたりしないか戦々恐々としていた。年末には数々の歌謡祭が控えているし、コンスタンスにアップしているファン向けのユーチューブ動画の撮影や、そんな数多のスケジュールが天候などに左右されず順調に進むとは限らなかったからだ。そんなことは今までの経験上嫌というほど味わっている。だから蒼たちは、そんな降って湧いたようにできた休暇に事前に予定など入れられない。でも、流石に明日のオフが無くなることは無いだろうと、蒼は安堵していた。
蒼と大和は、大和の両親へのクリスマスプレゼントを選ぶため、どこの店がいいか事前にラインで確認し合っていた。まだ何をプレゼントするか考えていないらしく、それを蒼にさり気なく頼ろうとしているのが分かる。蒼は自分のセンスが大和に認められていることは分かっていたが、それでも両親への贈り物を蒼の選択に委ねてくれることが、信頼の証みたいで嬉しかった。
今日は年末の歌謡祭で披露する曲のダンスの練習をしている。ただオリジナルのダンスを披露するのではなく、歌謡祭用にアレンジしたパフォーマンスを披露するため、スタッフやメンバーとアイディアを出し合いながら詰めていく作業をしている。
「何か、みんなやる気ある?」
瑞樹が少しイライラしたようにみんなに発破をかけた。確かに蒼も明日の休暇に上の空になっていて集中していなかったのは事実だ。でも、まだ一週間以上先の舞台だ。正直そこまで必死にならなくても良いのではないかと蒼は思ってしまうのだが。
「他のグループとは一線を画すパフォーマンスしないと、やっぱり視聴者の記憶に残らないと思うんだ。俺たちって凄いんだよってこと、もっともっと頑張って見せつけなくていのかよ!」
瑞樹は汗を振り乱しながらそう言った。スタジオが水を打ったようにシーンとなったが、それを打破するように大和が口火を切った。
「まあまあ、瑞樹。あんま熱くなるなよ。少し休憩入れて頭リフレッシュさせようぜ」
「休憩? 何のんきなこと言ってんの? そんな甘い考えでいいと思うの?」
大和は瑞樹に詰め寄られると、顔を引きつらせながら後ずさりをした。瑞樹に熱血のスイッチが入ると、リーダーの大和でも中々手に負えない。というか、見た目とはかなり違う中身の大和は、人から強く押されると負けてしまうというギャップの持ち主だ。今回もまたそんな感じになってしまい、蒼はそれをとても気の毒に思うけど、不覚にも萌えてしまう。
(バカか、俺……何興奮してんだよ)
早くこの空気をどうにかしたいのに、蒼はつい二人の様子を邪な目で見てしまう。でも次の瑞樹の言葉を聞いた瞬間、蒼は頭に一瞬で血が上った。
「ああ、そうだ。明日俺たちオフだけど、俺このままじゃダメだと思うだ。明日もみんなでが練習しよう! スタッフの皆さんもいいですよね?」
瑞樹はスタジオにいる人間を見渡しながら声高らかにそう言った。
「はあ?! 明日?」
蒼は瑞樹に向かって思わずそう大声で言ってしまい慌てて口を噤んだ。
「何だよ、蒼、都合でも悪いのか?」
瑞樹がすかさす蒼を不思議そうに見つめる。蒼は怒りマックスで瑞樹に近づくと、ただ何も言えず瑞樹を無言で睨みつけた。言いたいことは山ほどあるが、ここでそれをぶつけられないもどかしさに頭がおかしくなりそうになる。
「……蒼……練習嫌なのかよ。でも、それでいいのか? お前、今日は特に集中してなかったの俺知ってるぞ」
(ああ、分かってるよ! でもそれの何が悪い! お前に俺の幸せを奪う権利なんてないだろう!!)
そう叫びそうになった時、蒼の肩を誰かが強く掴んだ。
「蒼……お前明日何か用事あったんだよな。しょうがないよ。キャンセルするしかない……確かに瑞樹の言う通りだよ。この年末の歌謡祭は沢山の人に見てもらえるチャンスだからな。そこでもっと進化した俺たちのパフォーマンスを見てもらわないと、意味がない」
蒼は背後でそう語る大和にゆっくりと振り返ると、大和の目を食い入るように見つめた。蒼が心の底から残念だという思いが伝わるように熱く見つめる。大和は蒼の視線を真っ直ぐに受け止めると、蒼を見守るように優しく小刻みに頷いた。
(くそ、くそ、くそ! 何でこうなった!)
蒼は悔しさの余り、スタジオを飛び出してしまいそうになったが、徹との約束を思い出しそれをぐっと我慢した。
(蒼。お前の長所はクールで冷静沈着なところだろ。忘れるな……。)
そう何度も自分に言い聞かせながら、蒼はもう一度大和を見つめた。
『お・れ・も・く・や・し・い』
大和は蒼を見つめながらそう口だけで言った。蒼はそれを見たら悔しさが倍増してしまい、スタジオの床をゴロゴロと転がりながら、まるで子供みたいに駄々をこねる衝動と、必死に戦った。
今日の練習が終わり、蒼は怒りを内包している状態のままメンバーと一緒に宿舎に帰りたくなくて、徹に一人で帰ると伝えた。なるべくメンバーを避けるように、皆がスタジオ内にあるシャワールームでシャワーを浴び終えるまで、スタジオの隅っこで一人待った。だれもいなくなったことを確認すると、蒼はシャワールームに行き、一人用のシャワー室が横一列に五つほど並んでいる中から、適当に一つを選び扉を開けて中に入った。
シャワールームには誰もいなかった。蒼は今一人きりだと思うと、明日の予定が無残にも無くなってしまった悲しみが、追い打ちをかけるように圧し掛かってきて、蒼はシャワー室の壁に両手を付くと、深く項垂れた。
(悔しいな、瑞樹……俺はお前のそういうところが大好きでもあり、大嫌いでもあるんだよ!)
蒼は瑞樹への憎しみを持ち続けるのはやっぱり辛くて、「あいつは悪くない」と心の中で何度も唱えるが、自分のこの苦しみはそう簡単には消えてくれない。
(シャワーで全部洗い流せればいいのに……。)
そう思い、シャワーのバルブを捻ろうとした時だった。誰かがシャワールームに入って来た気配を感じた。蒼は別に気にする必要などないと分かっていても、我慢できず扉を開けると、顔を出して外を伺った。
「あ……」
二人同時に声を出したと思う。一瞬生まれたその気まずいような感覚は、あっという間に喜びへと変化し、蒼はシャワー室から飛び出ると、その人物目がけて駆け出した。
「大和さん! 何で? もう帰ったと思ったよ!」
「と、徹が俺に教えてくれたんだよ。蒼が一人で帰るって……だ、だから、俺も一緒に帰ろうと思って、その前にシャワーを浴びようと思ったら……な、何でいるんだよっ」
大和はタオルで股間を隠しながら、恥ずかしそうに蒼を見ずにそう言った。筋肉質な身体に不釣合いな想像以上の白い肌に、蒼の興奮は一気に高まる。
「嘘……だな。本当は知ってたんでしょ? 俺がここにいること……」
蒼の言葉が図星だったのか、大和はビクッと身体を震わすと、首筋と顔を一瞬で赤く染めた。
「来て!」
蒼は大和の手を取ると、自分のシャワー室へと引き入れた。少し体が冷えてしまったから蒼はシャワーのバルブを捻ると、熱いお湯を勢いよく出した。
「蒼……」
大和は悲しげに眉間を寄せながら蒼の名を呼んだ。お湯に濡れた大和は一瞬で色気を纏うから、蒼の心臓はバクバクと暴れ始め、自分の理性を簡単に壊そうとする。
「すまない。俺はいつだって中途半端な奴で……瑞樹に同調する方を選んだよ。それが正しいのか、俺には瞬時に判断できなかったんだ。オフだって必要なんだよ。頭と体を休ませないと、クリエイティブな発想なんて生まれないし……」
大和は思い詰めたようにそう言うと、蒼をすまなそうに見上げた。
「いいよもう。大和さんは押しに弱いからね。俺はそれがたまに心配だけど……俺もごめん。大和さんが止めてくれなかったら、俺あのまま瑞樹と喧嘩してたよ……」
蒼はそう言うと、大和を強く抱きしめた。狭いシャワー室の中に大人の男が二人で入ったら、自然と身体が密着してしまう。そんなシチュエーションも相まってか、蒼の興奮は、これ以上にないという部分まで到達している自信がある。
「誰か来たらどうしよう……」
大和は蒼を抱きしめ返すと、不安げに瞳を震わせながら蒼を見つめた。
「何言ってんの? 自分から仕掛けた癖に……」
蒼は意地悪く口角を上げながら大和を見つめた。
「なっ、ち、違う!……俺は蒼が心配で」
「ああ、もう。本当に可愛い。大好きだよ。大和さん……」
蒼は自分の中心が大和のそれと触れ合っているのを感じながら、昂っていく自分の中心の熱に浮かされ、頭が徐々に真っ白になっていく。
「蒼、俺に可愛いいって言うのはなしなっ」
未だ無駄な悪あがきをしようとする大和が益々可愛くて、蒼は大和の顎を持ち上げると、お湯で濡れた唇に素早くキスを落とした。
「ふっ、んっ」
蒼は舌を忍ばせると、少しだけ躊躇いがちな大和の舌を凌辱するように絡ませる。大和はびくびくと身体を震わせながら、蒼の舌の動きに可愛いほど素直に反応してくれる。
「うっ、ふっ、蒼、蒼……」
大和は蒼の名を吐息交じりに呼ぶと、蒼の首に腕を絡ませ、自らも角度を何度も変えながら蒼にキスをした。
熱いお湯が蒼たちの興奮を更に高めるからか、蒼はもう堪らなくなって、大和の口から自分の口を離すと、そのまましゃがみ込み、大和の中心を掴んだ。
「蒼!」
驚いて腰を引こうとする大和を宥めるように、蒼は大和の腰を後ろから支えると、躊躇いなく大和の勃立しているそれを口に含んだ。
「うあっ、蒼! くっ、はあっ」
初めてする行為でも何の抵抗感もなくて、蒼は自分が生理的にもどれだけ大和が好きかを悟る。この人の全てが汚れなく綺麗だから、蒼はオーラルなセックスでも全く平気だ。むしろ、より深く大和と繋がれているような感覚に蒼は喜びを感じ、胸がいっぱいになる。
「やっ、あっ、蒼! そ、それダメっ」
大和は膝に力が入らないのか、壁に凭れると、片手でシャンプーなどを置く棚を掴み、もう片方の手は蒼の頭の上に優しく置いた。
蒼は大和が弱そうな裏筋の部分を、執拗に舌で舐め上げながら口を上下させ強い刺激を与える。
「はあっ、あ、ああっ、くっ、蒼!」
白い首筋を反らせながら、快感に喘ぐ大和に蒼は興奮し、こっそり自分のものを掴むと、大和にバレないよう自慰をする。自慰行為など今まで本当にただ機械的にしていただけなのに、こんなに興奮するのは初めてで、おれは無我夢中に口と手で悦楽を極めていく。
「くっ、うっ」
蒼は大和のそれを愛おしむように咥えながら自慰をしていると、自分の方が先に果ててしまうかもしれないことに情けなさを覚えた。
「……蒼、自分でするな、口離せ……」
大和はそう言うと、蒼の頭を両手で掴み蒼を立たせた。
「大和さん……」
「バカ、俺にもさせろ」
「やっ、いいよ、俺すぐイッちゃうからっ」
「気にするなって」
大和がしゃがみ込もうとするから蒼はそれを力づくに制止した。
「さ、触るだけでいいから、それはまた後で……」
「蒼……」
大和は複雑な表情を作ると、いきなり蒼の肩に唇を寄せ、そっと噛んだ。
「後なんて……いつあるか分からないのに……」
大和は蒼の耳元にそう囁くと、今度は強めにもう一度蒼の肩を噛んだ。
「いっ……ああ、やめてよ、そんなこと言うの。俺、マジ泣くよ?」
蒼は眉間に皺を寄せると、ぐっと下唇を噛んだ。
「泣くなんて蒼らしくないよ……明日は俺たちができるだけのことをしよう。必死にただパフォーマンスのことだけを考えるんだ。分かったな?」
「大和さん……」
蒼は本当に泣きそうになる気持ちに鞭を打った。それが蒼たちにとって絶対に正しい行動だと大和が言うのなら、蒼はそれに素直に従うしかない。
「……分かったよ。大和さん、だから触って、早く!」
蒼は強請るように大和の肩に頬を寄せると、そう言った。
「ああ、蒼……」
大和はもう既に限界に達している蒼のそれを掴むと、力を込め扱いた。
「くうっ、はっ、あっ」
「蒼……俺のも早く……」
大和が切なげな声で蒼の耳元に囁く。蒼は上せているからなのか、軽く眩暈を感じながら、大和のそれを掴んだ。
「大和さん……愛してるよ」
蒼は大和を見つめて真っ直ぐに思いを伝えると、二人はお互いに自分の中心を扱き合いながら、高みへと向かう階段を上り始める。
(いつあるかなんて分からないよ。でも、俺は今、それを頼りに生きてるんだよ!)
蒼は心の中でそう強く叫んだが、結局、大和と共に得られた猛烈な快感に、成すすべもなく体を震わせるだけだった……。
ともだちにシェアしよう!