「あ、海斗と空おっはよーう！」 教室の扉を開けて声をかけて来たのは犬の耳のようにも見える癖っ毛のある髪型をした僕と海斗の友人の犬伏#実弘__さねひろ__#君だ。文字通り犬みたいに人懐っこくて皆から人気がある。普段は長いから皆弘(ひろ)って呼んでる。本人もそう呼ばれたがってるからね。 「おはよう弘君。」 「はようっす弘！なぁなぁ、夏休みとか出掛けるなら海と山どっちにいく？」 どうやら海斗は持ちネタを弘君にもやるみたいだ。さて弘くんはどっちを選ぶのかな？ 「うーん。その選択肢なら海かな！焼きそばとかき氷が食べたい！」 「おぉー、いいなぁ！焼きそばとかき氷。俺も食いたくなってきた」 海斗と弘君は気が合うのか出会った時から仲がよかったんだよね。 「けどどうせなら両方に行こうぜ！」 「えぇー、さすがに疲れない？」 「まぁ、さすがにちょっと疲れるかもだけどその分楽しいだろ。何よりもどうせなら両方行かなきゃだろ！だって俺山本海斗だしな！」 あ、持ちネタが出てきた。 「？………あっ！なるほど。そっかそれならいかなくっちゃだね！」 弘くんは一瞬意味が分からなかったみたいだけど直ぐに理解した。そしてそれに乗ってくる。 いや別に名前に入ってるからって行く理由にはならないんだけどね。まぁ、それを言うのは野暮だよね。 「なんか楽しそうな話してるな。俺も混ぜろよ」 「おはよう空君、海斗君」 「はようっす歩」 「おはよう歩君」 海斗と弘君の会話に加わって来たのは佐藤悠真君だ。活発そうな目をしていて見た目通り運動はそこそこできるけど、本人的にはゲームが1番好きみたいなんだよね。それと海斗と同じであまり物事を考えるのは得意じゃないけど海斗ほどではない。 そして僕と海斗にあいさつをしたのは伏見歩君だ。 運動も勉強も卒なくこなして、いつも穏やかで優しい笑顔をしている。凄く頼り甲斐のある委員長だ。副委員長の遠藤君と合わせて皆からよく頼られている。 弘君と悠真君、歩君は同じ中学だったらしく結構仲がいいみたいで入学式の頃から今までよく一緒にいる。 でも入学式の頃は弘君と悠真君の間で何かあったのか当時は気づかなかったけど、今考えるとなんだか弘君はピリピリしていたように思う。あと気が合うとは言え入学した頃は海斗といる事が結構多かった気がするんだよね。多分弘君は悠真君を避けていなんじゃないのかな。 今はもうそんな様子がないからよかったけど一体何があったんだろう？ 「空君大丈夫？もし今日体調悪いなら無理しないでね」 「え、空今日調子悪いの？」 「ん？なんだよ空今日具合悪いのか？」 「え、なんで？」 「だって空君はいつもならもっと早い時間に学校についてるでしょ？なのに今日は海斗君と一緒だから何かあったのかと思って。」 「「確かに！」」 弘君と悠真君がなんかハモってるけど放置でいいかな。 にしても海斗に続いて他の人にも心配されとは思わなかったなぁ。不謹慎かもしれないけど人に心配してもらえるってなんだかこそばゆくて少し嬉しい。 けどごめん。これを誰かに言える勇気は僕にはないんだ。 「あはは。大袈裟だよ。昨日中々眠れなかったから今日ちょっと寝坊したから時間が少し遅くなっただけだよ。」 苦笑を浮かべながら僕はそんな言葉を出した 嘘をついた事に罪悪感が湧く。でも誰かに本当の事を言う勇気も僕にはない。そんな自分が嫌になる。 「だから心配しなくても大丈夫だよ」 「なんだ寝坊かよ。空が寝坊とな珍しいな。」 「なぁんだ寝坊しただけか。まぁ、何もなくてよかったぁ。」 「そっか。僕の心配しすぎならよかったよ。」 「あはは。でも心配してくれてありがとう」 嘘をついてる罪悪感から上手く言葉が見つからず、苦笑も浮かべたままになってしまってる。 そして教室に入った時から横目で探してる僕が用のある人はいないらしい。机に鞄があるから意気込んで扉を開けたのに拍子抜けしてしまう。けど少し安心してしまった。早くなんとかした方がいい事なのに。 「あっ、木鈴おはよう。」 そんな事を考えると後ろから声をかけられた。 ………あれ？なんかこんな展開つい最近にもあったような。