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第一章・3

「君、大丈夫かい?」  男子生徒は、痴漢の手首を掴んだまま、宇実に話しかけて来た。 「え。あ、はい……」 「乗務員を呼ぼう。この男を、警察に突き出すんだ」 「いいよ。そんなことしてちゃ、学校に遅れちゃうよ!」  その時、電車のドアが開いた。  痴漢は手を振りほどき、人ごみを泳ぐようにして、慌てて降りて行った。 「逃げられたか」 「もう、いいって」  それより、と宇実は男子生徒に向き直った。 「助けてくれて、ありがとう。僕は、清水 宇実。君、僕と同じ学校? 転入生?」  記憶力には自信のある、宇実だ。  同校に、この男子の見覚えは無い。  時節柄、転入かと考えた。 「私は、天羽 要(あもう かなめ)。その通り、転入生だ」  そして、良かったら学校まで案内して欲しい、と要は言ってきた。 「手続きに来た時は車だったから、電車や徒歩での道順がうろ覚えなんだ」 「いいよ。一緒に行こう」  宇実は、初めて知り合ったこの要と共に、電車を降りた。

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