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第一章・5

「でもさ、天羽くんはどうして一人称が『私』なの?」  この年齢の男子は、たいてい『僕』や『俺』なんじゃないのかなぁ?  そう訊ねると、要は照れ臭そうに笑った。 「可笑しいかな。小さい頃から、ずっとそう言ってきたから」 「もしかして」 (もしかして、天羽くんはいい所の御子息?)  宇実の考えは、正解だった。 「実家は、企業を経営しているんだ。アモウ・ホールディングス。聞いたこと、あるかなぁ」    聞いたことあるも無いも、この国屈指の大企業だ。  宇実は、目を円くした。  そして、その御曹司が握手など求めてくるのだ。 「清水くん。良かったら、友達になってくれないか? 慣れない生活が、不安なんだ」 「ぼ、僕でいいなら」 「良かった!」 「痛い、痛い! 手!」 「あ、ごめん」  力強く握られた要の手は、大きくてがっしりしていた。  足はもう校庭に着いており、二人を爽やかな風が招いた。 「見事な桜だ」 「うん。そうだね」  何か新しい、素敵な出来事が待っている予感。  宇実と要は、並んで桜の並木道を歩き始めた。

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