5 / 94
第一章・5
「でもさ、天羽くんはどうして一人称が『私』なの?」
この年齢の男子は、たいてい『僕』や『俺』なんじゃないのかなぁ?
そう訊ねると、要は照れ臭そうに笑った。
「可笑しいかな。小さい頃から、ずっとそう言ってきたから」
「もしかして」
(もしかして、天羽くんはいい所の御子息?)
宇実の考えは、正解だった。
「実家は、企業を経営しているんだ。アモウ・ホールディングス。聞いたこと、あるかなぁ」
聞いたことあるも無いも、この国屈指の大企業だ。
宇実は、目を円くした。
そして、その御曹司が握手など求めてくるのだ。
「清水くん。良かったら、友達になってくれないか? 慣れない生活が、不安なんだ」
「ぼ、僕でいいなら」
「良かった!」
「痛い、痛い! 手!」
「あ、ごめん」
力強く握られた要の手は、大きくてがっしりしていた。
足はもう校庭に着いており、二人を爽やかな風が招いた。
「見事な桜だ」
「うん。そうだね」
何か新しい、素敵な出来事が待っている予感。
宇実と要は、並んで桜の並木道を歩き始めた。
ともだちにシェアしよう!