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第五章・3
「宇実。……もう、寝た?」
「まだだよ。今、横になったばかりじゃない」
「そ、それもそうだな」
沈黙が苦しい。
要は、とにかくこの想いだけは伝えよう、と心に決めた。
「宇実。手を握っても、いい?」
「そうすると、よく眠れそう?」
「うん」
「じゃあ、いいよ」
そっと触れて来た要の手のひらは大きく、逞しかった。
その少し汗で湿った手を、宇実は握り返した。
彼の仕草に、要は勇気を出した。
「宇実。眠ってしまう前に、大切な話があるんだ」
「何かな」
「私は。宇実、私は君のことが」
来た、と宇実は心を身構えた。
この後に続く言葉を、予期した。
そして、何と答えるかを忙しく考えた。
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