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第五章・4
「君のことが。私は、宇実のことが、好きなんだ」
「そ、そう?」
「そう、って。君は、私のことを、どう思う?」
「え、えっと。あの、その……」
宇実はまだ、要に届ける巧い答えを思いついてはいなかった。
だが、彼の真心を一蹴してしまうほど、頑なでもなかった。
「こ、困ったな」
「困る? なぜ?」
「僕は、人を好きになっている余裕がないんだ。恋をする、暇がないんだ」
高校を卒業したら、父の残した会社を継ぐ。
その覚悟を持って、今まで頑張って来たのだ。
要には確かに好意を抱いていたが、いざ付き合うとなると話は別だ。
「……じゃあ、宇実は。私のことを好きではないんだね?」
「いや、そんなことはないよ! 好きだよ!」
あ。
言ってしまった。
好き、と言葉にすると、宇実の心には、要への想いがどっと膨らんできた。
痴漢から救ってくれた、要。
学食の鮭を喜ぶ、要。
寄り道をしてはしゃぐ、要。
どんな要も、好きだった。
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