34 / 94

第七章 花玉

 宇実は要に、真珠養殖の作業について話した。 「今は4月だから、稚貝の沖出しの準備をしてるんだ」  真珠は、母貝になるアコヤガイの中で作られる。  他の地方から仕入れたまだ小さな貝を、真珠養殖に耐えられるように育てなければならない。 「秋には1㎝くらいに、成長するよ」 「ずいぶん、手間と時間がかかるんだなぁ」  うん、と宇実はうなずいた。 「貝に付着した汚れを取らないといけないし、避寒させなきゃいけないし」  そうして手塩にかけて育てても、真珠を作る間もなくその50%は死んでしまうのだと言う。 「最高の花玉となると、わずか5%なんだ」  なるほど、と要は息を吐いた。 「貴重な宝石だ、ということは実によく解ったよ」  職人たちは、もういない。  稚貝の沖出し作業か、通年の貝掃除に行ったのだろう。 (私と宇実との恋もまた、始まったばかり)  要は、小屋の窓から作業をする職人たちを見た。  彼らとこの海に賭けて、この恋を花玉のように価値あるものにしよう。  そんな風に、改めて考えた。

ともだちにシェアしよう!