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第七章 花玉
宇実は要に、真珠養殖の作業について話した。
「今は4月だから、稚貝の沖出しの準備をしてるんだ」
真珠は、母貝になるアコヤガイの中で作られる。
他の地方から仕入れたまだ小さな貝を、真珠養殖に耐えられるように育てなければならない。
「秋には1㎝くらいに、成長するよ」
「ずいぶん、手間と時間がかかるんだなぁ」
うん、と宇実はうなずいた。
「貝に付着した汚れを取らないといけないし、避寒させなきゃいけないし」
そうして手塩にかけて育てても、真珠を作る間もなくその50%は死んでしまうのだと言う。
「最高の花玉となると、わずか5%なんだ」
なるほど、と要は息を吐いた。
「貴重な宝石だ、ということは実によく解ったよ」
職人たちは、もういない。
稚貝の沖出し作業か、通年の貝掃除に行ったのだろう。
(私と宇実との恋もまた、始まったばかり)
要は、小屋の窓から作業をする職人たちを見た。
彼らとこの海に賭けて、この恋を花玉のように価値あるものにしよう。
そんな風に、改めて考えた。
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