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第七章・5
「あ、あの、ね。天羽さん、これは。この真珠は……」
困った笑顔で、言い出しにくそうに伯父は要に声を掛けた。
「伯父さん、これは約束だから」
二人のやりとりや表情で、空気を察することのできない要ではなかった。
伯父は花玉が惜しくなり、宇実はそのまま要に真珠を贈ろうと言うのだ。
「宇実。ここはひとつ、ビジネスをしよう」
「ビジネス?」
「この真珠は、私が買い取るよ。そして後日、ネクタイピンに加工して渡して欲しい」
それでいいですか?
要が伯父を見ると、彼は両腕で大きくマルを作ってうなずいた。
「でも要さん。僕はあなたに真珠をプレゼントしようと……」
「宇実。私は、充分贈り物をしてもらったよ。豊かな海、職人さんの努力、貝の尊さ」
どれも、今まで全く知らなかった。
知らずに、人生を送ろうとしていた。
「宇実に、教えてもらったよ。素敵なプレゼントだ」
「要さん、ありがとう」
ボートの支度をするために、伯父がその場を離れた。
その隙に、要は静かに宇実を抱き寄せた。
潮風に吹かれながら、大切な人を抱きしめた。
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