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第十章・2
「……失敗した!」
シャワーに打たれながら、要はバスに来たことを後悔した。
ここには、宇実との楽しいひとときがたくさん残されているのだ。
嫌でも彼の姿が思い出されて、苦しさは増すばかり。
胸を押さえながらバスルームを出ると、着信音が鳴っていた。
「誰だろう……、宇実!?」
急いで電話に出ると、聞きたかった声が流れてきた。
『もしもし、要さん? 今、いいかな』
「いいとも。何か、用かい?」
『用ってわけでもないんだけど……。何、してた?』
「シャワーを浴びていたよ」
他愛もない会話を軽やかに楽しむ一方、要の胸はキリキリと痛んだ。
ああ、この通話が途絶えると、宇実はまた遠くに行ってしまうんだ。
そんな思いが、渦巻いた。
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