52 / 94
第十章・3
『じゃあ、そろそろ切るね』
「待って、宇実」
『何?』
「君は、どうして電話をくれたのかな」
『えっと……。ごめん、迷惑だったかな』
迷惑だなんて、とんでもない。
要は、スマホを握り直した。
「ただ、私もちょうど君の声が聞きたかったものだから」
『僕も、だよ』
「えっ」
『僕も、要さんの声が無性に聞きたくなって』
おかしいね、と宇実は言う。
さっきまで、一緒にいたのに。
ついさっき、別れたばかりなのに。
宇実の言葉は、要に衝動を与えた。
思いのたけが、口をついて出た。
「宇実。私と、暮らさないか?」
ともだちにシェアしよう!