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第十一章・4
「海に来ると、開放的になるなぁ」
うんと両腕を上げて伸びをしながら、要は潮風を吸い込んだ。
ごつごつとした岩場の多い、磯。
そこの風は、野趣あふれる生命の香りに満ちていた。
長靴で、そろりと海水の中に入る。
要はすぐに、岩陰に潜んだ生き物を見つけた。
「宇実。ウニがいるよ! このウニ、食べられるかな」
「要さん、それは危ないよ。棘に毒があるから!」
残念ながら、要の見つけたウニは、ガンガゼだった。
触れないように気を付けて、要は伸ばした腕を退いた。
「要さん、石の下にも生き物はたくさんいるよ」
「解った。転がしてみる」
そっと石をはぐってみると、小さな魚や透き通ったエビ、そして見慣れない生き物が。
「宇実。……これは、何だろう」
「それは、ムラサキクルマナマコだよ」
「ナマコ? 食べられるかなぁ!?」
「食べられないよ!」
何でも食べようとする要に、宇実は笑った。
父と、よく楽しんでいた磯遊び。
時を経て、要と共にこうしてまた味わっている。
それが、宇実にはひどく嬉しかった。
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