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第十四章 二人の成長
8月。
無法なクルーザーの座礁事件を乗り越え、海は祭りの支度に入っていた。
「本当に。あの時は、要さんのおかげで助かったよ」
「私は、ただお兄様に連絡しただけだ。それより、宇実の方が偉いよ」
要はかがめた腰を伸ばし、立ち上がった。
「こうして、地元の人たちに声を掛けて、海をきれいにしているんだから」
事故を起こしたクルーザーから流れ出た油による被害は、最小限に食い止められた。
しかし、まだ海を漂うゴミに付着した油は完全には回収できていない。
そこで宇実は、地域の人々に訴えかけて、漂着ごみを拾い始めたのだ。
豊かな海で漁業を営んでいるのは、宇実の会社だけではない。
タイやハマチ、フグなどの養殖も盛んだ。
そんな人々や地元の学校にも声を掛け、無人島に渡ってはゴミ拾いをするようになった。
「本当に。宇実にはいろんなことを教わったよ」
要は、思いをはせた。
温室育ちのお坊ちゃんのままでは、到底思いつかなかったゴミ拾い。
確かに宇実の真珠も大切だが、彼と楽しんだ磯遊びも、要の心に深く根付いた。
あの小さいけれど懸命に生きている生命たちが、油にまみれて死んでいくなんて考えたくもない。
心優しく、逞しく育った要の姿が、そこにはあった。
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