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第十五章 終わる夏

 海祭りの日、港横に広がる大芝生広場に、高いやぐらが組まれた。  周辺には、色とりどりの屋台が並んでいる。  幸い天候にも恵まれ、夕刻には大勢の人々であふれかえって  その中に、要と宇実の二人の姿もあった。 「賑わってるね。ワクワクしてくるなぁ!」 「要さんは、お祭り初めてなんだね」  腹に響く和太鼓の音を感じながら、人々の笑い声を味わいながら。  二人は、屋台を覗いて回った。  綿菓子に、リンゴ飴。  射的に、くじに、焼きトウモロコシ。 「僕は、要さんがお腹を壊さないか心配だよ」 「大丈夫。衛生には、気を配ってあるんだろう?」  金魚すくいに足を伸ばしかけて、要はとどまった。  すくった金魚を、マンションで世話する人間が、もういない。  要は、明日には発つのだ。

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