83 / 94

第十五章・3

 やがて日が西の海に沈み、黄昏時になった。  選ばれた若者が一人、松明を持って海を泳ぐ。  港からすぐそばの、鳥居のある小さな無人島に渡り、明かりを灯した。  人々は神に祈り、海に感謝する。  この土地の、伝統的な儀式だった。  和太鼓の音が、響く。 「素晴らしい。この祭りに参加できて、よかったよ」 「ら……」 「ら?」 「ううん。何でもない」  来年もまた、二人で来たいね。  そう言いかけて、宇実は言葉を飲み込んだ。  二人にはもう、次がないのだ。  こみ上げてくる涙も飲み込んで、宇実は要と共にやぐらを見上げていた。

ともだちにシェアしよう!