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第十五章・4
宵闇が広がり、空に大輪の花火が広がった。
歓声が上がり、皆一斉に天を仰ぐ。
「宇実、離れないで」
「要さんこそ、迷子にならないでね」
二人はしっかりと手を繋ぎ、花火を眺めた。
「綺麗だ」
「うん」
菊花火に、牡丹花火。
八重芯菊に、三重芯菊、四重芯菊……。
花火の光の後には、大きな音が残る。
その音の合間に、要は宇実に語り掛けていた。
「この花火が終わったら、さようならだ」
「えっ?」
「私はこのまま、ホテルへ行くよ」
「……うん」
「宇実はマンションへ戻って。ゆっくりしてから、明日、伯父さんの家へ」
「うん」
ああ、いけない。
涙が、こみ上げてくる。
要も宇実も、それを必死でこらえていた。
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