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第十五章・6
きれいだったね、花火。
また来年も、来ようね。
そんな声のさんざめく雑踏の中、宇実は独りだった。
隣に、要はもういない。
「きれいだったね、花火」
返事は、無い。
「また来年も、来ようね」
来年も、無い。
「要さん。要、さ、……ん……」
あまりの喪失感に、宇実は震えていた。
どこをどうやって、マンションに戻ったのかも覚えていない。
ただひたすら、孤独に耐えていた。
シャワーを浴びても、独り。
ベッドに潜っても、独り。
傍に眠る人は、もういない。
次から次に涙がこぼれて、やがて嗚咽に変わった。
「う、っく。うぅ、う。要さん、要さん……!」
解ってたはずだ。
こうなることは。
それを承知で、恋に落ちた。
しかし、失ったものはあまりに大きかった。
宇実は、泣いた。
眠れそうも、なかった。
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