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第十六章・2

『私は、君に出会えて本当に良かったと思っているよ』 「うん」 『短い間だったけど、ありがとう』 「うん」 『見送りには、来ないで欲しい。辛いから』 「……いや、ダメだ」  眠れなかったベッドの中で、宇実はずっと要との別れを考えていた。 『見送りには、来ないで欲しい。辛いから』  そう、要さんは言ったけど。 「ダメだよ、要さん。行っちゃダメだ!」  宇実は、掛布を蹴飛ばし跳ね起きた。  時計を見ると、時刻は朝の7時を回ったころだ。  要は、7時57分の電車で、空港のある隣県へ向かうことになっている。  急いで身支度をし、宇実はマンションを飛び出した。

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