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第十六章・3

(ああ、どうか間に合って!)  中央駅へ向かう電車の中で、宇実はひたすら祈っていた。  各駅停車のローカル線が、やたら遅く感じられる。 (あと、少し。あとは、駅に着くだけ!)  ところが、そこで電車が急停車した。  乗客は皆ざわめき、辺りをきょろきょろと見回している。 「何が起きたんだろう」  宇実は、焦った。  もう少しなのに!  車両に歩いてきた乗務員が、説明を始めた。  どうやら乗客同士でいざこざが起き、暴力事件にまで発展してしまったので、誰かが緊急停止ボタンを押したらしい。 「皆様、今しばらくお待ちください」 「しばらく、って。しばらくって、どれくらいですか!?」  宇実は、思わず声を上げていた。  しかし、それは乗務員にも解らないだろう。  困っている彼が止める間もなく、宇実は電車を飛び降りていた。 「僕、急ぐんです!」  急ぐんです、僕は。  要さんのところに、行かなきゃならないから!  宇実は、線路の上を走り出した。

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