90 / 94

第十六章・4

 線路のバラストに、足を取られながら。  枕木に、つまずきながら。  時には転んで、地面に叩きつけられながら、宇実は走った。  息が切れる。  横腹が痛む。  それでも、猛然と走り中央駅を目指した。 「発射オーライ」  そう声を上げて電車を見送ったホームの駅員は、驚いた。  小さな少年が、その後で走り込んできたからだ。 「き、君は!?」 「電車が……!」  腕の時計を見ると、7時57分ちょうど。  要の電車は、宇実からどんどん遠ざかっていく。 「かな、め、さん! 要さぁあん!」  宇実の声は、もう届かない。  電車は、みるみるうちに小さくなってしまった。 「大丈夫? 君、こちらからホームに上がって」  駅員に導かれ、宇実は泣きながら立った。  要さん。  行っちゃった。  ホームに上がり、泥で汚れた手で涙をぬぐった。

ともだちにシェアしよう!