91 / 94
第十六章・5
「ところで、君はどうして線路を走って来たんだね。名前は? 学校は?」
駅員がいぶかしそうに掛ける尋問をぬって、優しい声が聞こえてきた。
「宇実……、やっぱり来てくれたんだね!」
「要さん?……要さん!」
ホームには、手荷物を下げた要が立っていた。
宇実がその胸に飛び込む前に、要は駆けだしていた。
「宇実! 会いたかった!」
「要さん!」
泥に汚れ、ほこりにまみれた宇実を、要は抱きよせた。
高価なスーツが、台無しだ。
それでも構わず、宇実を抱きしめた。
「ダメだよ、要さん。行っちゃダメだ……!」
「うん」
「ずっと。一緒にいよう……!」
「うん」
「ずっと、ずっと。一緒に……」
「うん。うん……」
ホームで、二人抱き合って泣いた。
駅員は笑顔を残し、そっとその場を去って行った。
ともだちにシェアしよう!