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第十六章・6
桜の季節だ。
三日前に、講座の確認に行った時、校庭は花開いた桜でいっぱいだった。
「昨夜の雨で、少し散っちゃったかもしれないね」
「うん。でもそうしたら、花びらで大地に桜が咲いているよ」
「要さん、相変わらず前向きだなぁ」
「宇実も、優しいのは変わらないね」
要と宇実は、大学生になっていた。
今は一年間過ごしたマンションを離れ、大都市圏に住んでいる。
一流大学に進学し、やはり一緒に暮らす道を選んでいた。
入学の決まっていた海外の大学を蹴る、と聞いた時、要の両親は困惑した。
反対し、叱責し、なだめた。
しかし要は、頑として自分を貫いた。
『私は、運命のつがいと共に歩みたいのです』
兄の口添えもあり、要は許された。
宇実と共に、生きる。
要が、自力で切り開いた道だった。
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