92 / 94

第十六章・6

 桜の季節だ。  三日前に、講座の確認に行った時、校庭は花開いた桜でいっぱいだった。 「昨夜の雨で、少し散っちゃったかもしれないね」 「うん。でもそうしたら、花びらで大地に桜が咲いているよ」 「要さん、相変わらず前向きだなぁ」 「宇実も、優しいのは変わらないね」  要と宇実は、大学生になっていた。  今は一年間過ごしたマンションを離れ、大都市圏に住んでいる。  一流大学に進学し、やはり一緒に暮らす道を選んでいた。  入学の決まっていた海外の大学を蹴る、と聞いた時、要の両親は困惑した。  反対し、叱責し、なだめた。  しかし要は、頑として自分を貫いた。 『私は、運命のつがいと共に歩みたいのです』  兄の口添えもあり、要は許された。  宇実と共に、生きる。  要が、自力で切り開いた道だった。

ともだちにシェアしよう!