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朱夏 4
渡り廊下は本館から伸びる朱色の手すりに促されるように続いている。
朱に映える苔むす石と、小さく跳ねながら泳ぐ錦鯉、遠くに聞こえた鹿威しに耳を打たれて立ち止まった。
「美しい庭ですね」
「蒔田 と言う腕のいい庭師がいて、良くしてくれるので」
葉だけの南天のうら寂しさを眺めながら離れの木造の戸を跨ぐと、ふわりと油の臭いが鼻を突いた。
翠也の肩越しに向こうを見遣れば、ただただ真っ直ぐな廊下が一本伸びているだけの簡単な作りで、左右に二つ、計四つの引き戸があり、突き当りに厠か何かの白木の簡素な戸が見える。
「左が僕が使っている工房になります。卯太朗さんはこちらの……」
翠也が戸を引くと、たん と小気味よい音が響く。
こちらに世話になるからと引き払ってきた古びた家とはまったく違う、軽やかな戸の開き具合に驚きを隠すことができなかった。
せいぜい、小さな部屋が与えられるものだとばかり思っていたが……
「この部屋を使ってください。ある程度の荷物は整えてあると……」
工房内を見渡し、柳眉を下げてこちらへと振り向く。
「足りないものがあれば仰ってください。畑違いなせいか僕は良くわからなくて」
「ありがとう、おいおい出るだろうからその時はよろしく頼むよ」
壁に沿って画材等が置かれてはいたが、がらんとして人を拒むかのような雰囲気の部屋へと踏み出す。
足の裏に、さらりとした木の柔らかな感触がする。
静謐さに囲まれたその空間に、火に触れた時のようなざわりとした鳥肌が立つ。
「気に入りませんか?」
「えっ⁉ いや、文句のつけどころのない部屋です。むしろ私が使っていいのか申し訳なくなってしまうくらいで……」
ふふ と笑い、翠也が窓を開ける。
「ここからは夏と秋の庭が見えるので、見頃はもう少し先でしょうか」
さわさわと初夏の風が、留まっていた部屋の空気と彼の着物の袖を揺らす。
緑の香る風を受けて気持ちよさそうに目を細める彼を見遣った。
男にしては線の細い、ほっそりとした項は女のそれよりも青臭い分どこか蠱惑的だ。
直線的で、
けれど白く、
美しい。
「どうかされましたか?」
呆けていたのをそう聞かれ、いいやと首を振る。
「それから、あちらの 」
そう言い、廊下へ出る戸とは別にある戸を開けるとつんとくる藺草の匂いが届く。
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