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濡羽と黄金 10

 その獣のお陰で商売が成り立っているのだろうがと、悪態を吐こうとしたらるりにさっと手を引かれた。 「あのばぁさんいつもああなんだ」  慣れているのか、るりはその硝子の目に特別な感情を見せてはいない。  けれど……と遣り手婆の遠退く背中を睨みつける俺の背を押し、るりはにこにこと笑ってみせる。 「ほら、こっち」  日が入りにくいのか湿っぽく黴臭い、布団の敷かれた狭い和室に入るとるりはいきなり俺の服に手を伸ばしてきた。 「おにいちゃんもたいがいだけど、卯太朗も好き者なんだねぇ」  それは昼間から宿に入ることを指しているのか、それとも自身のような人間を買うことを指しているのか…… 「待て、そう言うんじゃないんだ」 「うん?」 「乱暴されていただろう? 手当てがしたくて……傷は?」 「じゃあ、卯太朗が確認して?」  話しながら指は下穿きの中から逸物を引っ張り出し、まるで小さな子供をあやすかのように優しく撫でてくる。 「────っ、るり!」  きつく咎めるように言って下穿きの乱れを直すと、るりはちょっと唇を尖らせてつまらなさそうに項垂れた。   「けがは大丈夫。いつものことだもん」  強かに打ち付けた背中を向けられるが、着物の上からでは分かるはずもない。  仕方なく、商売服なのか派手な模様の着物をぐいと引っ張った。    上品とは言い難い花の模様が歪んで、その下から白い背中が現れる。  半透明に透ける、生命の色を朧に見せる背中は残念なことに脇腹の方に赤い色が広がっていた。 「…………」  白を浸食する赤を、これほど忌々しく思ったこともない。   「ちょっと打っただけだよ?」 「これがちょっと?」  薄く肋骨の浮き出る体にそっと手を這わすと、やはり痛かったのかぴくりと体が跳ねる。 「湿布か、痛み止めを……」  そう言いかけて、痛散湯を志げに渡してしまったことを思い出した。 「少しだけさすってもらえたらそれで十分だよ」  緩く首を振るるりに、何もしてやれない歯がゆさを感じながらそろりと力を込め過ぎないように赤みを撫でる。  まだまだ暑いと言うのに汗をかいていないのか、その肌の表面はさらりとしていて絹のようだ。  指先に感じる肋骨のなだらかな凸凹とした感触と、掌からわずかに震えて伝わる鼓動と…… 「ん……っ」  皮膚が薄いためか、俺の手の熱があっと言う間にるりの肌に馴染み、細い背中がひくりと震える。 「うた  」  ぎゅっと着物を握り締めたままるりがちらりとこちらを振り返った。  硝子の瞳に熱が宿り、潤んだ蒼い色が俺を見て訴えかける。  乱れた着物から覗く白い肌と、肩に触れて揺れる黄金色の髪と……それから誘うようにわずかに開いた薄い唇と……

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