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葬儀 13
玄上の後援者であり、夫亡き後すべての事業を引き継いで辣腕を奮っている並木馨子は、雰囲気からして一般人とは一線を画していた。
「並木夫人、御無沙汰しております」
「お久しぶりですね、お会いできたと思ったらこのような場所で……本当に、しょうのない人」
化粧で隠しきれない目元の腫れを見て、居たたまれずに俯く。
玄上と馨子の関係はごまかしきれるようなものではなく、そこにあった情を思うとその悲しさに言葉を失うほどだ。
「この度は……その…………あいつは、いつから?」
「隠すのが上手なひとだから、久山さんには何も言わなかったのね」
微笑まれて頷くしかない。
「同情が欲しい人ではなかったから。許してやって」
「えぇ」
「こちらは?」
翠也を見て、るりに目をやって戸惑いを含ませる。
なんと説明したものかと思案しながら翠也を手招いた。
「並木夫人、こちらは南川翠也くんです。彼の家でお世話になっています」
「この度はご愁傷さまです」
「あぁ、翠也くんのお名前、玄上から聞いているわ。来て下さってありがとう、あの人も喜ぶわ」
視線がるりの方へと移り、さてどう説明をしたものかと思ったところで馨子が微笑んだ。
「……るり、くん よね?」
「おばさん、おれのこと知ってるの?」
ぽかんと言ったるりの言葉に、馨子が苦笑した。
「えぇ! 貴男のことも聞いてるわよ。今は久山さんと?」
「……っ」
るりは答えず、さっと俺の後ろに隠れてしまった。
子供じみた行動を止めさせようと手を引くが、るりは顔を見せようとはしない。
「すみません、人見知りで……」
「そう、怖がらせちゃったかしらね」
少し寂し気に言い、馨子は新見に呼ばれて行ってしまった。
「…………」
その背中を見送り、玄上の寝かされている方へと行く。
寝かされた玄上は血の気がなく、生前の爛漫とした表情の欠片もない。
「 おにいちゃん?」
ぽつりと問いかけるるりの言葉に、今にも冗談だと言って飛び上がるのではないかと期待させる静かな横顔に胸が詰まった。
「玄上」
いつものように名を呼ぶ。
長い付き合いだ。
共に苦楽し、励まし合い、随分と二人で悪さもした。
娼婦遊びを俺に教えたのも玄上だったと思い出し、静かに苦笑を漏らす。
「おにいちゃん、起きそうだね」
「ああ」
「起こしたら、起きてくれるかなぁ」
ぽろぽろと泣き出したるりの頭を抱え込む。
翠也に目配せをし、腕の中で泣きじゃくるるりを連れてその場を離れた。
「おにいちゃ っおにいちゃんっ! 起きてぇ……ぅ……起きてよぉっ! ひっ……っ、う……」
弔問客の間を縫うように、悲痛な声が響き渡る。
重苦しく沈む辺りの雰囲気に、明るい空間の好きだった玄上は悲しんでやしないかと、今更にその死を思って視界が揺れた。
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