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葬儀 14

「久山君」  声をかけられ、甲で涙を拭ってそちらを向いた。 「京山先生……ご無沙汰しております」  全体的に細長い印象を受ける白髪の老人に向かって頭を下げる。   「久しぶりだねぇ、この度はまったく……はは、驚いたよ」 「私もです」  京山先生は俺と玄上が世話になった美術教師だ。  専攻が彫刻とあり、長く師事はできなかったけれど基本を教えてくれた恩師だった。 「何もこんなに生き急がなくともなぁ」 「はい、せっかくこれからって時に……」 「君の名前も聞くようになってきたよ。あの女性の絵は良かったねぇ、君は人物をやるべきだね」  かつての師にそう言われ、世辞でも嬉しくて顔が赤くなった。   「連れがいるようだからこれで。無精せずにまた連絡をおくれ」 「はい」  京山先生はそう言うと、俺の後ろにいる二人に頭を下げて去って行く。 「卯太朗さんの先生ですか?」 「そう、君達にもああ言う良き師が見つかるといいのだけれどね」  昔はもう少しがっしりとした印象を受けたものだった背中を見送り、「無精せずに」の言葉を胸中で頷いた。  るりに新しい布団を渡し、今まで使っていた布団を工房に敷く。 「卯太朗」 「どうした?」 「いっしょに寝ようよ」  濡れ髪のるりがそう言って俺の布団の傍にくる。 「それはできないよ」 「……なにもしないよ?」  何かを見透かされた気がしてどきりと心臓が跳ねた。 「する、しないじゃない。ここではそう言うことをしちゃ駄目だ。いいな?」 「卯太朗たちはしてたのに?」 「っ!」  何も言い返せずに息を飲む。  思わず視線を逸らしてしまった俺に、気まずく思ったのかるりが小さく「ごめん」と言葉を零した。 「……でも、お願いだよ。さび……し……っ、おにいちゃんの、顔見たら、すごくさびしくて  っ」    しゃくり上げる姿は同情を誘うが、それでもこれ以上関係を持つことはできないし、疑われるような行動をとることもできない。 「すまないと思うが……」 「じゃあ、さ。寝るまででいいからへやにいてよ」  ぐずりぐずりと鼻を啜るるりに折れ、しかたなしに寝床の傍に座った。  そうするとぱっと表情を明るくしたるりが布団に寝転がり、手を繋いで欲しいと強請ってくる。  迷う俺の手を、細く長い指先が掻くように撫でるのに促されて手を握った。  いつもと変わり映えしない自室に、西洋人形のようなるりがいる不思議に今更ながらに目を瞬く。 「うたろ……」 「うん?」 「おにいちゃんに会わせてくれて、ありがとう」  眠さを堪えているのか、涙の粒を纏った睫毛がゆっくりと動いて閉じそうになる。

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