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葬儀 15
「明日から絵の練習をしような」
「……ぅん」
返事はするものの、良くわかっていないのが見て取れた。
「 おれに、できるかな?」
うとうととするるりの髪を宥めるように梳いてやると、その手に擦り寄るようにして目を閉じる。
「大丈夫」
俺の言葉に嬉しそうに笑う。
無邪気な様が、柔らかに心に安堵をもたらしてくれた。
擦り寄ってはくすぐったそうに声を出す姿は、媚びと取るにはあまりにも俺の心を慰めるように寄り添ってくれている。
「さぁ、寝るんだ」
「いてくれる?」
「あぁ」
髪を撫でられる心地よさに時折負けそうになりながら、るりは繰り返しいてくれるかと確認したが、やがて言葉が途切れ途切れになり、健やかな寝息を立て始めた。
金糸の近い髪を指に絡める。
つるりと指から溢れるそれは光の軌跡を描き、宝物が手の中にあるような高揚感をもたらす。
翠也と出会う前にるりに会っていたら とは思わない。
きっとるりを知っている状態で翠也に出会ったとしても、翠也を選ぶのは間違いなかった。
水に飢えた旅人のように、翠也が欲しくて堪らない。
翠也は、そう言う存在だ。
るりがしっかりと眠っているのを確認してから、音を立てないようにそろりと廊下に出て翠也の部屋の戸を叩く。
「翠也くん?」
問いかけるように名を呼べば、かたりと音がして戸が開いた。
「卯太朗さん……」
ほっとした表情で俺を迎え入れると、間髪入れずに腕の中へと飛び込んでくる。
「遅くなってすまない」
「今日は来て下さらないかと」
頼りなげな体がもたれかかってくるのを、優しく抱き締めてやりながらそっと口づけた。
「来ないなんて考えられない」
はいと従順に答える翠也の匂いを肺いっぱいに満たす。
そうすると安堵が押し寄せてきて、今日一日の事柄が脳裏に巡った。
峯子との話し合いや、玄上の穏やかな横顔、それから華やかな馨子や懐かし師。
嵐のようなそれらを何とか飲み込もうとしても、うまく飲み切れずに小さく唸り声が出る。
「お疲れですか?」
優しく問いかけられて素直に頷いた。
「今日はいろいろなことがあったから」
そう言うと、穏やかだった翠也の顔にも苦悩が過る。
何を考えているのかは想像がついたが、翠也のことを深く知りたくてあえて尋ねた。
「どうした?」
「……僕も、今日にあったことを考えてました。そうしたら、不安で恐ろしくて……」
今日突きつけられたすべてを拒否するかのように、固く目を瞑ってしがみつく。
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