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葬儀 16
絵を描く条件に出された事柄は、突き詰めていけば二人の関係を考えるところまで行かざるを得ない。
翠也の絵を見続けたい。
翠也の絵の一番の信奉者でありたい。
翠也の傍らにいたい。
翠也のすべてでありたい。
多恵の時のように、翠也を諦めなくてはならなくなるのかと思うと、心に冷たいものを抱え込む気分になる。
そうなった時に、俺は生きていけるのだろうか?
俺に翠也を守る術はないのだろうかと、堂々巡りの思いを繰り返した。
しこりのような思いを抱えながら、次の日からるりに絵を教え始めることにした。
取りかかった当初は意欲的な態度を見せたものの、まず鉛筆の持ち方から教えようとした途端に雲行きが怪しくなって……
「う……ん? むずかしいよ」
俺からしてみれば、どうしてそれで力が入るのかわからないような握り込む形の持ち方で、それを矯正しようとするとうまく力が入らずに鉛筆が落ちてしまう。
それがどうにも面白くないらしく、むずがる赤子のようにるりは首を振る。
「ほら、頑張ってごらん。慣れたら楽だから」
「んぅ」
むっと眉間に皺を寄せて、るりは鉛筆を放り投げた。
甲高い音をさせて転がる鉛筆を拾って向き直る。
「るりっ!」
「つまらない」
ぽつんと呟き、唇を尖らせて目を逸らしてしまう。
その様子は頑なで、無理矢理は逆効果かと思わせるには十分だった。
仕方なく鉛筆をしまう。
「……やめちゃうの?」
「ああ、無理にしても逆効果だからな」
「じゃあ、おれとさんぽしよ!」
先程までの拗ねた顔なんて微塵も感じさせない表情で言う姿に、苦笑が漏れる。
「悪いな、翠也くんの方にもいかないといけないからね」
「 っ」
途端、猫の目のようにがらりと表情を変えて腕にしがみついてきた。
いきなりなんだ? と訝しむ俺を他所に、るりはするりと膝の上に腰を下ろしてしまう。
「どうした?」
「ここにいてよ」
愛らしく甘える様は愛玩のための動物の媚びにも近い様子で……
その雰囲気を壊すために、亜麻色の髪をぐしゃぐしゃと撫で廻す。
力を込めて掻き回してやると、じたばたと小さな子供のように暴れてから膝から転げ落ちる。
「あっ!」
床に転がったるりが、恨みがましい目でこちらを睨んで頬を膨らませた。
駄々っ子さながら、足をばたんと鳴らす。
「人の膝の上に乗るなんてことはしちゃいけない。もうあんな仕事はしなくてもいいんだから」
そう宥めようとすると、るりはきっと眉を吊り上げて拳で床を叩いた。
体に響くような音に負けて二の句を次げずに口を閉ざすと、そんな俺を見て顔をしかめる。
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