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第4話 してみない?

「え?」 「部屋余ってるから家賃と水道光熱費も要らないし、食事付き、バイト代もちゃんと出すよ」 要約すると「住み込みの家政夫」って事か。 「俺大学生ですし、邪魔じゃないですか?」 「寧ろ仕事捗るし、俺生活力ゼロだからぶっ倒れた時傍に居てくれるの助かるんだ」 確かに、玄関先で「事件現場に遭遇した感」は慣れない。 高見さんの生活力というか、体調が心配なのは俺も一緒だ。 俺は食事の手を止め、しばし考える。 庶民の憧れ、夢の高級タワーマンション暮らし。 願ったり叶ったりだ。 しかし、一つ見落としてはならない大切な事がある。 俺は手を膝に置き、真剣な面持ちでゴクリ、と唾を飲んだ。 「…服は」 「ちゃんと着るし。むしろ着てたし」 「不束者ですが、よろしくお願いします」 「うん、よろしく!」 秒で頭を深く下げると、返ってくる明るい声。 こうして俺は、築50年木造アパートから高級タワマンの住み込み家政夫として、短期間で身に余る幸運に恵まれる事となった。 (まだ何か見落としてるような…) この時俺は、彼の深刻なED問題を綺麗さっぱり忘れていた。 そしてまさか自分が巻き込まれる羽目になるとは、想像にも及ばなかった。 そしてつつがなく、引っ越しは完了した。 元々荷物が少ないというのもあったが、高見さんが引っ越し業者を手配してくれたのが大きかった。 家事代行代は一日2時間×30日計算で、これまでの倍額という提案だった。 しかし家賃(一等地)+高級家具付き+水道光熱費+完全食事付きはあまりにも俺に都合良過ぎたので、バイト代は週3時のままにしてもらった。 しかも、だ。 「何か手伝う事ある?」 「じゃあ盛り付けお願いします」 「わかった」 こうしてたまに手伝ってくれたりもする。 曰く、気分転換になるそうだ。 今日の献立は「手巻き寿司」「鶏のから揚げ」「チョレギサラダ」「豚汁」「チーズケーキ」だ。 手巻きとは別に、花柄の巻き寿司を作った。 これはSNSで見たレシピだが、見た目にも凄い破壊力だ。女子力的な意味で。 一応引っ越し祝いだし、うん。しょうがないよね。 そしてご飯撮影会の後。 「ようこそ我が家へ」 乾杯ー!とお茶の入ったグラスを鳴らした。 「最&高!」 ホクホク顔の高見さん。 俺の密かなご褒美である。 自分が作った料理を美味しそうに食べる姿を見て、家政夫冥利に尽きるなあ、としみじみ思った。 「高見さんがルームシェアを提案するの、意外でした」 「俺、ちょっと変わってるからね。よく言われる」 別にそういう意味で言ったつもりはないけど。 でも24歳で人生あがってる人は確かにレアだ。 「凛君だからだよ。 初日に全裸の男を看病してくれただろう。 あれ、普通できないよ」 仕事は兄経由だし、事前に信用はしていた。 全くの初対面なら俺も別の手段を取ってたかも知れない。 「その後も、俺や何かを否定する言葉が一つも出てこなかったのが、単純に凄いなあと思って」 「そういうもんですか?」 「そういうもんだよ。俺、人として破綻してるし」 ははは、と自傷気味に言う。 あと毎日食事が楽しみになった、と付け加えてくれた。 「破綻」って何だろう。今の所、全裸以外思い当たらないが。 それにしても、凄く持ち上げられた気がする。 何かのフラグだろうか。 「あとこれは嫌だったらいいんだけど」 唐突に不穏な切り出し方。 思わず手を止めて、生唾をゴクリと飲んだ。 「よかったら添い寝してもらえないかな」

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