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第7話 お願い
「え?そうなの?」
きょとんとする俺に、何かを察してかぽむ、と労うように両肩に手を置く兄。
「…まあ、人間思い出したくない事の1つや2つ、あるよな」
「ん?」
何やら思いつめ自分の世界に入ってしまった兄に、言及するのを止めた。
一週間後。
俺は土産を片手に、都内高級タワーマンションに戻っていた。
「ピンポーン」
インターホンを鳴らすが、反応がない。
不意に、初日の衝撃を思い出す。
いやいや、まさか。
ガチャリ。
合鍵で重く大きな玄関扉を開ける。
「ただいま…」
目前には玄関先で倒れた高見さんがいた。
***
「完治じゃなかった」
しくしくと俺の膝枕で泣き崩れる高見さん。
血色は以前ほど悪くないが、心なしかやつれて見えるのは気の所為か。
俺は久し振りの膝枕にかける言葉が見つからず、ただ宥める事しか出来なかった。
宥めすかせ何とか落ち着いた高見さんを他所に、1週間分の家事に取り掛かる。
まずは洗濯。
住み込みになってからは、乾燥機は使わずに天日干しに切り替えた。
俺の所感だが、この方が生地が傷まず長持ちする。
…さっきから視界の端に、高見さんの気配がチラチラ見えるのは何だろう。
そして今日の献立は「鶏胸肉の南蛮漬け」「えんどう豆麺の冷やし中華風」「水キムチ」「カットフルーツ」だ。
りんごはうさぎに、キウイは花の形にカットした。
「お゛い゛じい゛」
「食欲があってよかったです」
「さらっと食べれるものばかりだし、ありがとう」
「お口に合ってよかったです」
ひしひしと、一口ずつ噛みしめるような食べ方だ。
よほど俺の居ない間に何かあったのだろうか。
――23時、寝室にて。
(あ。)
ベッドに入ると、高見さんが背後から抱き締めてきた。
毎朝ハグ状態で目覚めてはいたが、寝入りに抱き付かれたのは初めてだ。
俺は最近体得した「抱き枕の悟り」を開く。
(俺は抱き枕。オレはダキマクラ)
ぎゅう、と縋るような腕。
「おやすみ」
「…おやすみなさい」
まあ、今日だけかもしれないし。
寧ろ悪化したんじゃ…という懸念をかき消して、俺は瞼を閉じた。
――翌朝。
ブーッ、ブーッ。
静かに鳴るスマホのアラーム。
高見さんにハグされた状態で、目覚める朝。
やあ、抱き枕のしのりんです。
不意に、抱き締められた腕に力が籠る。
「よかった~」
「?何がです?」
「俺のファルスがエクスカリバーだよ~」
言わずと知れた、尻にあたってる固い「ナニ」だ。
「えっと、ずっとそうでしたよね?」
毎日ではないが、割と頻繁に尻にあたっていた。
「一緒に寝てる時はそうなんだけど、ここ一週間は全然でさあ」
そうだったのか。
昨日の悲壮感も納得の理由だ。
「あの、お願いがあるんだけど」
もごもごと、頬を染めながら言い淀む高見さん。
何となく、不穏な電波をキャッチした。
いやある、絶対あるぞ、「爆弾」が。
「疑似エッチしてみていい?」
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