12 / 20
第12話 素直じゃない
まるで計ったようなタイミング。
「どこに?」
「どこがいい?」
何と言っていいのかわからず、ぷいっと顔を背けたが、がぶりと鼻を甘噛みされた。
「素直じゃないな」
「やっ」
迫る顔。塞がれる唇。
ちゅ、ちゅっとリップノイズを立てながら、優しく口を啄ばまれた。
少しずつ深くなるキス。
僅かに残った理性で、あっさり受け入れてしまった自分に驚く。
それも一瞬で、高見さんのキスは俺の思考を甘く溶かした。
依然、高見さんの腰は俺の股下で轟いていた。
ずっ、ぬちゅっ、ずちゅっ、ずちゅっ
「も、イきそ♡」
「いいよ、一緒にイこうか」
キスを続けたまま、激しくなる腰。
俺はローションで濡れた自分のチンコを扱く。
ずっ、ずっ、ずちゅっ、ぬちゅっ!
「ん、はっ、あっ、んんっ♡」
びゅるっびゅるるるるっ
俺達はほぼ同時に達し、互いの精液を俺の腹にぶちまけた。
――翌朝。
「おはよ」
「…はようございます」
もう、朝か。
結局、昨夜は脱力状態の俺を高見さんが清めてくれ、そのまま抱き枕にされて寝オチ。
彼は元来パンイチ睡眠派だが、俺に至っては全裸のまま爆睡してしまった訳で。
成程、素肌で寝るのは気持ちいい。
何となく気恥ずかしくて、顔を反らす。
高見さんは慣れてるだろうが、俺に至っては乳首を弄られて嬌声をあげるなど、女子みたいな痴態で男の癖にキモくなかったか、などと些か不安だった。
隣で動く気配。
高見さんが寝室を出てから俺も出よう。
瞼を閉じて待つと、不意に頭を撫でられた。
「寝ぐせ、かわいい」
くすくすと笑う低い声。
「今日は俺がコーヒー淹れてあげる」
ゆっくりしておいで、とその場を後にした。
「…スパダリかよ」
同性にあさってな感想を抱きつつ、俺はふて寝した。
部屋着を着てリビングに行くと、コーヒーの豊潤な香りに包まれていた。
ダイニングテーブルに置かれたコーヒーと、向かいに座る高見さん。
コーヒーを飲む為には、高見さんと顔を突き合わせなければならない。
どうしよう。
寝室は薄暗いからある程度は許容出来たが、リビングは日当たりもよく、明るい。
立て続けにこんな事をするとは思わなかった。
俺は普段通りに高見さんの顔を見れるだろうか。
考えても仕方ないので、俺は重くなる足を動かしながらテーブルの席に着く。
「コーヒーありがとうございます」
「いえいえ」
ニコニコと笑顔で返す。
変らない優しさに心が温かくなった。
「寝れましたか?」
「お陰様で、もう大丈夫みたい」
帰省前の健康状態と変わらぬ雰囲気に戻って、ほっとする。
むしろ昨日だけでも高見さんは2回射精してた。
自称EDが嘘のようである。
となると、逆に俺不在の1週間は何だったんだろうか、と思う。
世の中、理解が及ばない事がまだまだ沢山あるんだな。
気付けば、俺は自然に高見さんと話せるようになっていた。
「何作ってるの?」
昼下がり、背後からひょっこり顔を覗かす高見さん。
「九龍球(クーロンキュウ)作ってみようかと」
俺はレシピを表示させたスマホをを見ながら、果物をカットしていた。
夏の香港スイーツで、丸いゼリーで包まれたカットフルーツは「食べるビー玉」と呼ばれるそうだ。
「すご、うまそう」
「今晩のデザートです」
「あーん」
高見さんは餌を待つ雛鳥のように、口を大きく開けていた。
(これは直で放り込んでもいいのかな?)
俺は種を取った一口サイズのメロンを、高見さんの口へ運んだ。
ぱくっ。もぐもぐ。
「あまい、おいひー」
「よかったです」
俺は突然の事に、しかし動揺を隠しながら元の作業へ戻る。
すると大きな手で頭を撫でられた。
多分、「ありがとう」のサインだ。
思わず頬が緩む。
するとちゅ、と頬に濡れた感触。
一瞬だが、高見さんがキスしたのだ。
ともだちにシェアしよう!